最新記事

映画業界

【再録】スター・ウォーズから始まったハリウッドの凋落

オリジナル3部作の「特別篇」が公開された97年、本誌映画担当は、大ヒットシリーズの「罪」について嘆く声を拾っていた

2015年12月16日(水)18時03分
デービット・アンセン(映画担当)

大いなる影響 『スター・ウォーズ』はマンガ的な単純さが見事に若者や子供の心をつかんだが、その成功後、似たような映画が増えたという Marilyn Nieves-iStockphoto.com

 ハリウッドを駄目にしたのは、ほかでもない『スター・ウォーズ』だ――逆説的に聞こえるかもしれないが、映画関係者の間にはそういう声が少なくない。

 たとえばユナイテッド・アーチストの元製作局長スティーブン・バックは、「個人的には大ファンだが」と言いながらも、『スター・ウォーズ』のヒットを「業界最悪の出来事」と呼ぶ。

 バックによれば、『スター・ウォーズ』の成功はハリウッドに経済的な連鎖反応を起こし、意欲的で斬新な映画は絶滅の崖っぷちに追いやられたのだ。

『スター・ウォーズ』もルーカスも、1977年当時のハリウッドでは決して主流ではなかった。むしろ当時の権威に対する挑戦者とみなされていた。

 そしてルーカスはこの挑戦に勝ち、旧世代の権威以上に恐ろしい「帝国」を築き上げた。質より量の超大作志向のハリウッドである。

 同シリーズの『帝国の逆襲』と『ジェダイの帰還』の脚本を担当したローレンス・カスダンは言う。「1本でも当たればすごいことに気づいた映画会社は、これに味をしめて路線を変更、ホームランねらいの大振りばかりするようになった」。そして小粒な好打者の出番はなくなったのである。

ストーリーよりアクション

 なにしろ1つの作品で2億ドルもの収入を見込めるのだ。こうなると、世界をまたにかける多国籍企業が映画会社に食指を動かすのも当然だ。

「それが悲惨な時代の始まりだった」と、カスダン。「以後、ハリウッド映画の質は着実に低下してきた」

 作品の中身を決めるのは、もう監督ではない。映画会社のマーケティング部門だ。主流のジャンルや観客層も一変(今はティーン向けのアクション映画が主流)、映画の収益構造も変わった(キャラクターグッズの売れる映画がよい映画とされる)。

 映画の売り方が変われば、映画の作り方も変わる。中身よりも見せ方、ストーリーよりアクション、人生の複雑さよりマンガ的な単純さ、何がなんでも特殊効果。これがルーカス以後の映画作りである。

 ひとたび若者向けに速くなったテンポは、年々速くなるばかり。スピード最優先の場面展開で、映画はどんどんテレビゲームに似てきた。

 こうして、大人の映画が主役だったハリウッドの黄金時代は幕を閉じた。60年代から70年代にかけて、フランシス・コッポラやマーチン・スコセッシらが生み出してきた深みと苦みのある大人の映画は、もう見られなくなったのである。

 確かにルーカスはハリウッドに、ポストモダンの壮大な叙事詩的映画をもたらしたのかもしれない。だが、このポストモダニズムにはアイロニーが欠けていた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ノバルティスとロシュ、トランプ政権の薬価引き下げに

ビジネス

中国の鉄鋼輸出許可制、貿易摩擦を抑制へ=政府系業界

ワールド

アングル:米援助削減で揺らぐ命綱、ケニアの子どもの

ワールド

訂正-中国、簡素化した新たなレアアース輸出許可を付
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 7
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 5
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 10
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中