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デートの夜に観たいドキュメンタリー

ヴォーグ誌伝説の編集長アナ・ウィンターを取り巻く華麗な世界の舞台裏を描く『ファッションが教えてくれること』は、堅苦しい社会派作品に飽きた人にもお勧め

2009年11月4日(水)16時27分
デービッド・アンセン(映画担当)

「プラダを着た悪魔」本人 ヴォーグ誌編集長アナ・ウィンターを追った『ファッションが教えてくれること』は11月7日公開 ©2009 A&E Television Networks & Actual Reality Pictures,Inc. All rights Reserved

 金曜日の夜。いつものような娯楽映画ではなくドキュメンタリー作品を見たい気分のとき、あなたならどちらを選ぶだろうか。

 温暖化がもたらす悲惨な結末を描き、人類滅亡を予想する作品? それとも、ヴォーグ誌伝説の編集長アナ・ウィンターを取り巻く華やかな世界を描いた映画?

 誘導尋問であることは認めよう。SFとドキュメンタリーが混じった前者の『愚か者の時代』(9月21日と22日に50カ国以上で同時上映される予定)は、「地球を救う」という崇高な目的を押し付けるやや説教くさい作品だ。

 後者の『ファッションが教えてくれること』(日本公開は11月7日)は、出版業界や高級ファッションの世界の舞台裏を追ったものだ。分析的ではなく、あくまで「のぞき見」感覚なのがいい。

 観客が期待するのは、ウィンターをモデルにした『プラダを着た悪魔』のリアル版。「猛女」と評判の彼女は決して温かみのある人物とは言えないが、時折見せるユーモアや思いやり、純然たるプロ意識がその印象を和らげている。

地球破滅は陳腐なテーマ

『愚か者の時代』があと3~4年早く(アカデミー賞を受賞した『不都合な真実』が大ヒットする前に)公開されていたら、大きな話題を呼んだかもしれない。だが地球の破滅を予想する映画は、今やコミックが原作の映画と同じくらいありふれたジャンルだ。

『I.O.U.S.A.』は公的債務がアメリカを破綻に導くと警告。『フロー』は水の供給の危機を、『フュエル』は石油への依存がもたらす悲惨な結果に警鐘を鳴らした。商業的に最も成功した『フード・インク』は、食品産業の実態を暴露した。

 こうしたドキュメンタリー作品には、どうすれば地球の破綻を回避できるかについてのヒントが盛り込まれている(電球を取り換えろ! ペットボトルの水を買うな!)。でも、こんな作品ばかり見ていたら不安や恐怖でいっぱいになってしまうだろう。

 ドキュメンタリー映画の忠実なファンでさえも、今の時代には現実逃避したくなるようだ。今年、ノンフィクション作品で予想外のヒットを記録したのは、ファッションデザイナーの知られざる一面を描いた『ヴァレンチノ──最後の皇帝』や、ブロードウェイのミュージカル『コーラスライン』の再演を追った『ブロードウェイ♪ブロードウェイ』だった。

『ファッションが教えてくれること』が、ドキュメンタリー映画の公開第1週の週末の興行収入としてはアメリカで今年最高を記録したのも、驚くには当たらない。

『愚か者の時代』に比べれば、ミーハーでふまじめな選択かもしれない。だが実際、映画としても面白いのだ。難しい問いを投げ掛けるのではなく、目の前で繰り広げられる出来事にすべてを語らせている。一方、崇高な命題にとらわれた『愚か者の時代』はその目的から外れるものには目もくれない。

 楽しくおしゃべりをするのと、堅苦しい講義を聴いているような違いだろう。デートの夜には誰だっておしゃべりを選びたい。

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