街の電気を地域資源に...江戸時代の宿場町が目指す、自治体、企業、市民が一丸となる再エネ社会
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地域にある資源を活用した再生可能エネルギーを地域に供給する地域新電力。 滋賀県湖南市にあるこなんウルトラパワー株式会社は、市と地元企業、専門のノウハウをもつパシフィックパワー株式会社が共同出資して設立した地域エネルギー会社です。 同社代表取締役である芦刈義孝さんに、自治体と地域外企業が力を合わせて、エネルギーと経済を循環させて地域を活性化していく取り組みについて伺いました。
地域に存在する資源を 再生可能エネルギーとして活用する
全国で脱炭素社会の実現に向けた取り組みが進むなかで、地域新電力が注目を集めています。地域新電力とは、地域で作られた再生可能エネルギーを地域内に供給し、得られた利益を活用して地域の課題解決に取り組む、自治体が出資する小売電気事業者のこと。2016年4月、電力小売全面自由化の流れを受けて全国に拡大し、その数は100社を超えています(2024年4月末時点)。市外に流出していた電気料金を市内に循環させるエネルギーの地産地消は、地域経済を活性化し、雇用など地域の課題解決にもつながります。
琵琶湖の南東に位置する滋賀県湖南(こなん)市は、江戸時代には東海道五十三次の51番目の宿場町として栄え、近年は日本の障がい者福祉の第一人者である糸賀一雄さんが近江学園を設立するなど、福祉の取り組みが盛んなまちとしても有名です。1997年には、障がい者の自立を支援する株式会社なんてん共働サービスの屋根に、市民たち自身の手で太陽光パネルが設置され、全国初となる事業性をもった市民共同発電所「てんとうむし1号」の稼働がスタートし、そこから4か所の「コナン市民共同発電所」の稼働に拡大しました。
「湖南市には、2012年に"地域のエネルギーは地域のもの"と明確に定めた『湖南市地域自然エネルギー基本条例』を全国に先駆けて制定したという実績があります。ただ、地域で発電した電気は地域固有の資源という基本理念が定められたものの、当時はまだ活用していく仕組みが整っていませんでした。
一方で、パシフィックパワーは、エネルギーの地産地消を促進させていく事業を全国で展開していたことから、湖南市と連携して地元で作った電気を買い取り、その電気を地元の人々や企業に販売する仕組みを構築することになりました」
こうして2016年、湖南市が筆頭株主となり、湖南市商工会や地元企業とパシフィックパワーが共同出資して、株式会社として近畿初の官民連携による地域新電力「こなんウルトラパワー株式会社」が設立されました。

電気代約1億円分が地域内で循環 発電だけでなく、効率的な利用も促進
「事業内容としては、コナン市民共同発電所が発電した電気を購入して地元の企業や家庭に供給することから始まり、現在では12の公共施設を含む25カ所に太陽光発電設備を設置して、順次、発電した電気を市内の公共施設や企業に供給開始しています。これまでの実績ではこなんウルトラパワーが供給する電力構成比の約25%が再生可能エネルギーですが、設置している発電所がすべて本格稼働すると、最終的に40%程度まで上昇する見込みです。
電気代で換算すると、それまで地域外に流出していた電気代のうち、こなんウルトラパワーから供給することで年間約1億円が地域内で循環することになります」
地域で生まれた電力を地産地消するにはまだまだ課題も多いと芦刈さんは指摘します。
「地域で生産された再生可能エネルギーだけでは100%の供給ができないという課題があります。また太陽光発電は昼間のみ発電するため、電力需要と供給のタイミングが合わないということもあります」
昼間の電気の使用量を抑える方法を模索し、省エネルギーを推進しつつ、一方で蓄電池も積極的に導入しています。2022年には湖南市が国の「脱炭素先行地域(※1)」に選定されました。その一環で、蓄電池を設置するサービス(※2)も行っています。
※1 地域の特性を活かしながら、2050年カーボンニュートラルに向けて、民生部門(家庭部門及び業務その他部門)の電力消費に伴う二酸化炭素(CO2)排出の実質ゼロを2030年度までに実現するモデル地域。
※2 初期導入費用はこなんウルトラパワーが負担し、利用者は月々のサービス料をこなんウルトラパワーに支払うスキーム。
「昼間に太陽光で発電した電気を充電する蓄電池を、市内の福祉施設やご家庭に初期費用0円で設置しています。また、蓄電した電気を不足する時間帯に供給するエネルギーマネジメントにも併せて取り組んでいます。これらの蓄電池を一カ所だけで完結するのではなく、こなんウルトラパワーが地域全体で一括して制御できれば、その地域全体でエネルギーの地産地消が進み、エネルギーマネジメントもうまくいくようになります」
災害時の避難所となるコミュニティセンターなど公共施設への蓄電池の設置によって、夜間など太陽光発電が稼働していない時間帯や停電時にも非常用電源として電力を使うことができるようになり、地域のレジリエンス(回復力)も向上させています。

地域の再生可能エネルギーを 地域に還元するさまざまな試み
こなんウルトラパワーは、エネルギーの地産地消を目指すさまざまな取り組みを行っています。
2019年には自治体新電力会社として初めてとなるグリーンボンドを発行しました。グリーンボンドとは、企業や地方自治体などが、国内外のグリーンプロジェクト(環境改善効果のある事業)に要する資金を調達するために発行する債券のことです。
「こなんウルトラパワーとして設備投資をしていく上で、資金調達が必要になります。グリーンボンドを始める前は、大きな発電所を建設していくための資金調達の課題がありました。滋賀銀行に相談したところ、債券を全額引き受けてくださり、いくつかのプロジェクトを一気に進めることができました。滋賀銀行は地方銀行として初の『SDGs宣言』を行い、CO2削減に繋がるような投資をしたいという志をもった企業で、想いを共にするパートナーとしてうまくマッチングできました」
こうして1億1000万円の債券を発行し、調達された資金で市内の物流センター2軒の屋根に太陽光発電を設置し、市内の小学校4校の体育館照明をLED化しました。
また、商工会と連携して地域内の消費を促進し、経済を循環させるために地域商品券を活用する取り組みも行っています。
「もともと市民共同発電所では出資配当金を地域商品券『こなん商品券』で還付していました。こなんウルトラパワーでも電気代が高騰したときやコロナ禍の際は、契約者や新規契約者に向けて地域商品券で還して地域経済を循環させる取り組みを行ってきています」
遊休地でサツマイモ発電! 障がい者や子どもが参加するエネルギー作り
そのほかこなんウルトラパワーは、民間のサツマイモ6次産業化とバイオマス製造燃料プロジェクトも支援しています。
コナン市民共同発電所プロジェクトが中心となって立ち上げた「こなんイモ・夢づくり協議会」。遊休地(※3)を活用して福祉事業所や幼稚園、小学校と連携しながらサツマイモを棚栽培し、6次産業化に取り組んでおり、その規格外のイモや葉、ツタなどをメタン発酵させてバイオガスを電力に変換するイモ発電プロジェクトを進めています。サツマイモ空中栽培は、障がい者など社会的に支援が必要な人々が農業に参画する「農福連携」にもなっています。
※3 活用されていない土地。
「棚栽培なので車いすの方など障がいをもつ人や高齢者、小さな子どもでも水やりが可能で、社会参画の場の創出にも一役買っています。こなんウルトラパワーはこの取り組みを支援するため、遊休地の上部空間に太陽光パネルを設置してソーラーシェアリングを運営し、売り上げの一部をプロジェクトに還元しています。
運営団体の皆さまからは、地球温暖化防止への貢献と、持続可能な活動につながるということで、大変喜んでいただいています」

再生可能エネルギー100%の未来に向けて 自治体と企業が一丸となって取り組む
地元企業、そしてパシフィックパワーが連携して、再生可能エネルギーによるエネルギーの地産地消に取り組む湖南市。その取り組みが評価され、2020年に内閣府の「SDGs未来都市」(※4)、2022年に環境省の「脱炭素先行地域」に選定されました。
※4 SDGsの理念に沿った基本的・総合的取り組みを推進しようとする都市・地域の中から、特に、「経済」「社会」「環境」の三側面における新しい価値創出を通して、持続可能な開発を実現するポテンシャルが高い都市・地域を内閣府が選定するもの。
湖南市役所とパシフィックパワーとの信頼関係の構築について、芦刈さんはこう語ります。
「自治体職員は数年という短いスパンで人事異動がありますが、地域の自然エネルギーは地域のものというスタンスに沿ってプロジェクトが進むので、目指す方向は常に一致しています。私自身も月に数回は湖南市を訪れ、普段からコミュニケーションを密にとるようにしています」

最後に、こなんウルトラパワーはエコジン(エコロジー+人)としてどんな役割を担いたいと考えているのか、芦刈さんに聞いてみました。
「今後の展望としては、CO2削減に継続的に取り組み、再生可能エネルギー100%の電気供給を目指すシナリオを検討中です。再エネ・省エネ・エネマネを駆使し、当面は公共施設のゼロカーボン化を目標としています。地域に根付いた活動を市民に見ていただき、自治体、企業、市民が一丸となってエネルギーの地産地消に進んでいければと考えています」

芦刈義孝(あしかり よしたか) こなんウルトラパワー株式会社代表取締役。パシフィックパワー株式会社事業推進部部長。建設コンサルタントのパシフィックコンサルタンツ入社後、主に環境エネルギー・環境政策分野の担当として、国・自治体に対するコンサルティング業務に幅広く従事。2015年にパシフィックパワーへ出向し、こなんウルトラパワー立ち上げから関わる。パシフィックパワーは、パシフィックコンサルタンツの100%子会社で、地域振興を目的とし、地域の小売電気事業を担う事業会社として2015年4月に設立。
【企業情報】
こなんウルトラパワー株式会社
所在地:滋賀県湖南市中央1-1-1湖南市商工会内
取締役:3名(2025年12月1日現在)
設立:2016年5月31日
写真/内藤貞保
原稿/脇本暁子
<関連リンク>
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環境省 地方公共団体実行計画策定・実施支援サイト・地域新電力取組事例集
ecojin's EYE 「脱炭素先行地域」





