最新記事
災害復興

真の復興支援を問う... 北陸応援割の「便乗値上げ」にまちづくりの専門家が全力で賛成するワケ

2024年3月11日(月)13時47分
木下斉(まちビジネス事業家) *PRESIDENT Onlineからの転載

税金による割引サービスの長所と短所

クーポンで旅行商品価格を割引く取り組みは、消費喚起策としても用いられる税金による割引サービスの一種です。2011年に発生した東日本大震災後、あるいはコロナ禍に実施された「GoToトラベル」、最近では熊本地震(2016年4月)後にも実施されています。

このようなクーポンは、税金の活用方法としてはコスパの良いものです。

例えば、政府が5000円のクーポンを配り、客がそのクーポンを利用して1万5000円の旅行商品を購入すれば、簡単に言うと3倍の経済効果を生み出すことができます。クーポン配布はレバレッジが効く方法なのです。

だから政府や地方自治体は、消費喚起策としてこの手のクーポン企画をやりたがるのです。自治体がPayPay割をよく行っているのもその理由です。

しかし、税金で割引した結果、旅行者が増えて宿泊施設が満室となり「よかったよかった」となるかと言えば、そんな単純ではないのです。

特に普段から良いサービスを提供し、しっかり付加価値を付け、値段を苦労して引き上げてきた事業者ほどバカをみます。

「GoToトラベル」で発生した宿泊施設の阿鼻叫喚

まず安売りをして何が起こるか。客筋が変わるのです。

「GoToトラベル」では、設備やサービスに投資をしてきた高級宿に、普段は泊まらないような客が押し寄せました。

知り合いの宿では大浴場のアメニティに、オーストラリアの化粧品会社Aesop(イソップ)の高価なソープやボディークリームを置いていたのですが、それらが軒並み盗まれたり、ダイソンのドライヤーが盗まれたりと散々な結果になりました。

shutterstock_1521052277.jpg

※写真はイメージです Boyloso- shutterstock

さらに、態度の悪い客が増加して、常連客から「なんであんな人たちが泊まっているのか」「大浴場で一緒になったけど大声をあげていて怖い」というクレームが入る始末です。

その高級宿は、一過性の復興支援・安売りに付き合ったばかりに、普段から真っ当な料金を支払ってくれる常連客を失うリスクまで抱え込むことになりました。

だから値上げをして顧客層を調整するようになったのです。皆がクーポン利用時で普段と変わらない金額に変え、サービス部分や食事をより良くしたりする工夫をするようになったのです。

実際に支払う金額で客筋は大きく変わります。単に儲けたいから値上げをしているだけではないのです。

言いたくないことですが、地獄の沙汰も金次第。安さを求める客にろくな客はいません。だから事業者は客を選別するために金額を設定しています。

クーポンが利用できる期間だけでなく、長期的な顧客との関係を考えた上で合理的に判断しているのです。

ビジネス
栄養価の高い「どじょう」を休耕田で養殖し、来たるべき日本の食糧危機に立ち向かう
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任し国連大使に指

ワールド

米との鉱物協定「真に対等」、ウクライナ早期批准=ゼ

ワールド

インド外相「カシミール襲撃犯に裁きを」、米国務長官

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官を国連大使に指名
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中