最新記事
日本企業

「役員予定」だった娘婿は生まれて4日の息子と引き離され離縁のうえ会社を解雇 超名門企業の創業家「男児を世継ぎに」という時代錯誤な執着

2023年12月22日(金)16時45分
吉田修平(ノンフィクションライター) *PRESIDENT Onlineからの転載

息子が生まれて4日、義父母が突然やって来て...

出産の3カ月前、大輔氏夫婦はロンドンに転居していた。すでに役員を務めていた妻の聖子氏はもちろん、ミツカンの社員となっていた大輔氏の英国支店配転によるものだったが、この結果、「英国で出産」という異例の事態となった。

しかも大輔氏は、転居後に和英会長から「1年間の育児休業を取得せよ、その間に転職先を探せ」と命じられる。婿入り時に約束された「近い将来ミツカンの役員に昇進させて十分な報酬も約束する」という合意はあっけなく反故にされ、逆にミツカンから出ていけとの命令だ。

そして息子が生まれて4日目の2014年9月1日、義父母がロンドンの大輔氏を訪ねてきた。

「あの日のことはいまも鮮明に脳裏に焼き付いています」

大輔氏はそう振り返る。

「ロンドンの産後ケア施設にいた僕たち夫婦のもとに、突然、日本から義父母がミツカンの常務を引き連れてやってきたのです。そして和英会長は『養子縁組届』なる書面を突き付け、この場でいますぐ署名しろと迫った。生後4日の僕たちの息子を自分たちの養子に差し出せというのです」

「中埜家に日本国憲法など関係ない!」

「隣にいたミツカン常務は、署名させるため自分のペンを差し出していました。呆気にとられた僕は『せめて夫婦で話し合いたいから一晩だけ考えさせてください』と懇願するのがやっとでした」

しかし、これに対して和英会長は大激怒。

「当主に逆らうのか!」
「この場でサインしなければお前を片道切符で日本の配送センターに飛ばしてやる!」
「中埜家に日本国憲法など関係ない!」
「お前は謙虚という言葉の意味がわかっていない!」

和英会長は大音声で大輔氏を恫喝。産後間もない聖子氏は恐怖のあまりわが子を抱きかかえたまま廊下にうずくまり、鬼面のごとき実の父の形相と怒声に声をあげて泣き続けていたという。

このままでは私たち夫婦は乳飲み子を抱えたまま本当に放逐されてしまう――。

ほとんど錯乱状態となった妻の懇願を受け入れ、結局、大輔氏はその夜のうちに署名せざるを得なかった。

婿として迎え入れる際は甘言を尽くし、いざ男児が誕生するやその子を奪い取るべく脅す。そればかりか、養子縁組届に署名させるや、今度は妻との別居まで命じられてしまう。そして実際、またもや恐怖におののく妻の懇願を受け入れざるを得なくなり、大輔氏夫婦はロンドン市内で別居生活を余儀なくされる。

長女も7代目当主の祖父と20歳で養子縁組

「とにかく妻は両親からの命令に絶対服従でした。幼い頃からそういうふうに育てられていたのでしょう。別居しなければ強制的に離婚させるとまで脅されていたのです。しかし僕たち夫婦の愛情は変わりありませんでしたから、これも妻の提案で、僕ら夫婦しかアクセスできない会員制サイトに『秘密の家族』と題したブログをつくり、そこで愛情を確かめ合う投稿を互いに続けることで絆はつながれていました」

夫への愛情は大切にしながら、親に対しては面従腹背(めんじゅうふくはい)――。妻・聖子氏のそんな態度を理解するには、ミツカンおよび中埜家において当主・和英会長と美和副会長夫妻がいかに絶対的な権力者、君主であったかを説明する必要がある。その一端は裁判でも明らかにされた。

夫妻には冒頭で触れた通り2人の娘がおり、聖子氏は次女。婿をとっての跡継ぎは当然、4歳上の長女・裕子氏(現ミツカン社長)が担うはずだった。実際、長女は20歳のとき、8代目という実父がいるにもかかわらず祖父である7代目当主の養子となっている。

これは、ミツカン中興の祖として崇められていた7代目の養子とすることで、長女こそ正当な9代目であると内外にアピールする狙いがあったのだろうと見られている。

まちづくり
川崎が「次世代都市モデルの世界的ベンチマーク」に──「世界に類を見ない」アリーナシティプロジェクトの魅力
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

豪・EUが貿易協定締結、世界的な貿易摩擦が交渉を後

ワールド

金正恩氏「核保有国の地位不可逆」、韓国を最も敵対的

ワールド

タイ輸出、2月は前年比+9.9%に鈍化 予想下回る

ワールド

ロシアとベトナム、原発建設で合意 中断経て署名
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:BTS再始動
特集:BTS再始動
2026年3月31日号(3/24発売)

3年9カ月の空白を経て完全体でカムバック。世界が注目する「BTS2.0」の幕開け

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    レストラン店内で配膳ロボットが「制御不能」に...店員も「なすすべなし」の暴走モード
  • 2
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」モナコ舞踏会に見る富と慈善
  • 3
    イランは空爆により核・ミサイル製造能力を「喪失」した──イスラエル首相
  • 4
    「胸元を強調しすぎ...」 米セレブ、「目のやり場に…
  • 5
    【クイズ】2年連続で「世界幸福度ランキング」で最下…
  • 6
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ…
  • 7
    スウェーデン次期女王ヴィクトリア皇太子、陸軍訓練…
  • 8
    「買ったら高いじゃん?」アカデミー賞会場のゴミ箱…
  • 9
    「カメラの目の前」で起きた爆発の瞬間...取材中の記…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 1
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 2
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え時の装いが話題――「ファッション外交」に注目
  • 3
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が発生し既に死者も、感染源は「ナイトクラブ」
  • 4
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 5
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 6
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 7
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 8
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ…
  • 9
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 …
  • 10
    「マツダ・日産・スバル」が大ピンチ?...オーストラ…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 10
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中