最新記事

仮想通貨

日銀、欧州中銀らとデジタル通貨研究へ リブラを前に「呉越同舟」

2020年1月22日(水)19時23分

日銀、欧州中央銀行(ECB)、イングランド銀行など中央銀行6行と国際決済銀行(BIS)は共同のグループを設立し、中央銀行デジタル通貨(CBDC)の活用のあり方を検討する。写真はフェイスブックが計画するリブラとEU旗。2019年10月、サラエボで撮影(2020年 ロイター/Dado Ruvic)

日銀、欧州中央銀行(ECB)、イングランド銀行など中央銀行6行と国際決済銀行(BIS)は共同のグループを設立し、中央銀行デジタル通貨(CBDC)の活用のあり方を検討する。異例の共同研究の背景には、急激に進む技術革新とフェイスブックが計画するデジタル通貨「リブラ」の脅威がある。金融政策のツールとしてのCBDCの可能性も議論するが、共同チームはマイナス金利政策への懐疑的な見方が高まる欧州の中銀と同政策を維持する日銀が「呉越同舟」の格好になる。

世界初の事例

共同研究に参加するのは、日銀、カナダ銀行、イングランド銀行、ECB、スウェーデン・リクスバンク、スイス国民銀行、BIS。これまで日銀は二国間での調査・研究は行ってきたが、6つの中銀が共同で研究を進めるのは世界初となる。急速な技術変化や民間のイノベーションの動きなどに対応するため、参加国の中銀で協力して調査・研究を進める。年内に報告書をまとめる見通しだ。

議論の主なトピックスは、中銀デジタル通貨の活用のあり方やサイバーリスクへの対応など。民間企業がすでに電子マネーなどの機能を拡充していることを背景に、民間の決済インフラと比較してデジタル通貨のメリットはどこにあるのかも議論の焦点となる。

さらに、共同グループはCBDCが金融政策のツールとして活用できるか、金利を付与できるかについても議論する見通し。ただ、グループに参加するスウェーデンのリクスバンクは昨年12月、マイナス金利を撤廃したばかり。欧米ではマイナス金利政策の効果に懐疑的な見方が高まっている。マイナス金利政策を維持する日銀を交え、共同グループの議論がどう展開するか注目される。

リブラの脅威

日欧中銀が共同研究に至った背景には、フェイスブックの「リブラ」の存在が大きいと、前日銀決済機構局長の山岡浩巳氏はみている。ロイターの22日のインタビューで「先進国の中銀の間でもきちんとデジタル技術を応用する努力をしていると示すことで、リブラのようなものをけん制する狙いがある」との見方を示した。

昨年、リブラ構想が浮上すると、既存の通貨秩序を壊すものとして各国の政府当局者の強い反発を招いた。「法定通貨の存在感が乏しく、銀行を通じた金融サービスから縁遠い諸国の人々をはじめ、世界的にリブラが普及したら、財政政策も金融政策も既存のものが通用しなくなる」(日本政府関係者)との危機感が高まった。

ただ、今回の中銀デジタル通貨の研究の先に、リテールで広く活用できるデジタル通貨が生み出されるのかは不透明だ。中銀デジタル通貨の発行は各国に委ねられる。国ごとに事情は異なり、日本は依然現金需要が高い。日銀は、現時点でデジタル通貨の発行計画には否定的だ。 

(編集:内田慎一)

和田崇彦 浜田寛子

[東京 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます



20200128issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年1月28日号(1月21日発売)は「CIAが読み解くイラン危機」特集。危機の根源は米ソの冷戦構造と米主導のクーデター。衝突を運命づけられた両国と中東の未来は? 元CIA工作員が歴史と戦略から読み解きます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

LSEG、第1四半期決算は市場予想と一致 MSとの

ワールド

北朝鮮製武器輸送したロシア船、中国の港に停泊 衛星

ビジネス

大和証G、1―3月期経常利益は84%増 「4月も順

ビジネス

ソフトバンク、9月末の株主対象に株式10分割 株主
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中