最新記事

金融

中国発日本経由で世界に流れる「汚れた金塊」 違法品を精巧な偽造印で洗浄

2019年8月29日(木)15時39分

偽造された金地金(金塊)が世界の金業界を揺るがしている。写真はメタロア社の儀損を見抜けるインクを刻印した金塊。スイスで7月撮影(2019年 ロイター/Denis Balibouse)

造された金地金(金塊)が世界の金業界を揺るがしている。密輸された金や違法な金を「洗浄する」ために主要な製錬業者の偽造された刻印の付いた金地金が、世界の市場に入り込んでいる。

製錬業者や銀行の幹部がロイターに語った。

偽造された金地金を検出するのは難しく、麻薬ディーラーなどの犯罪組織や制裁対象国の政権にとって格好の資金源になっているという。

関係者4人の話では、重量1キログラムの金地金(キロバー)の少なくとも1000本が偽造と判明した。毎年200万─250万本のキロバーを生産する金業界全体に偽造品が占める比率はわずかた。

だがスイスの精錬大手バルカンビのミハエル・メサリク最高経営責任者(CEO)は「最新の偽造は極めて高度に行われている」と指摘。2000本程度が発見されたかもしれないが、はるかに多くの偽造品が出回っている公算が大きいと付け加えた。

より安い金属の塊に金をめっきした偽造品は業界では割と一般的で、検出も容易な場合が多い。

だがこれらの事例では、偽造は巧妙に行われている。金は本物であり、純度は非常に高く、刻印だけが偽物だ。刻印の偽造は、紛争鉱物の流通阻止やマネーロンダリング(資金洗浄)防止のための世界的な措置をかいくぐる比較的新しい手法だ。

2000年代半ば以降の非公式な採掘や違法な採掘のブームは、金価格の上昇が引き金となった。金地金は一流の精錬業者の刻印がなければ、地下の販売網への流通や低い価格での売却を強いられることになる。アフリカの一部やベネズエラ、北朝鮮といった西側の制裁対象となっている国や違法な場所で生産された金は、スイスなどの主要ブランドの刻印を偽造することによって、市場に投入され、犯罪組織や制裁対象国の政権に資金を流す手段となり得るのだ。

これまでに発見された偽造品を誰が製造したかは明らかではない。だが関係者はロイターに、大半の偽造品は当初、金の世界最大の生産国で輸入国でもある中国で作られ、香港や日本、タイのディーラーや商社を経由して市場に入り込んだと思われると話した。これらの国で主流金ディーラーによっていったん受け入れられれば、偽造品は即座に世界のサプライチェーンに広がり得る。

事情に詳しい10人の関係者がロイターに語ったところによると、2017年にJPモルガンの金庫で同じ識別番号が刻印された少なくとも2本のキロバーが発見された。金庫の正確な場所は不明だ。この件についてJPモルガンはコメントしなかった。

偽造された金地金が発見された場合、該当する製錬業者に返品される。スイスの税関によると、イタリアと隣接するティチーノ州の地元検察には、2017年と18年に655本の偽造された金地金が報告された。同州ではスイスの大手精錬会社4社のうち3社が操業している。

精錬業者の幹部は、偽造品は他の国でも報告されていると話した。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任へ=関係筋

ビジネス

物言う株主サード・ポイント、USスチール株保有 日

ビジネス

マクドナルド、世界の四半期既存店売上高が予想外の減

ビジネス

米KKRの1─3月期、20%増益 手数料収入が堅調
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    【徹底解説】次の教皇は誰に?...教皇選挙(コンクラ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中