最新記事

不動産

富裕層向け資産運用会社、事務所設置で香港敬遠 「逃亡犯条例」改正案を巡る懸念から

2019年7月3日(水)15時00分

6月28日、香港から中国本土への容疑者引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改正案を巡る懸念から、富裕層の資産運用を手掛ける外資系ウェルスマネジメント(WM)企業の一部が香港での事務所設置を取り止め、シンガポールでの設置を検討し始めた。写真は6月、改正案に反対するデモが行われた香港中心部(2019年 ロイター/Jorge Silva)

香港から中国本土への容疑者引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改正案を巡る懸念から、富裕層の資産運用を手掛ける外資系ウェルスマネジメント(WM)企業の一部が香港での事務所設置を取り止め、シンガポールでの設置を検討し始めた。

ある欧州中堅WM企業の最高経営責任者(CEO)はロイターに対し、アジア子会社を香港に設置する計画を止め、シンガポールでの設置を狙うと説明した。

CEOは「ここ数週間の香港の状況を見ていて、安心できなくなった。私にとって最も重要なのは、顧客の安定性だ。100万─200万ドルを投じて事業を開設したのに、顧客がその市場での運用に不安を感じ出したために、ある日突然閉鎖を迫られるなどご免だ」と話す。

ロイターは6月、逃亡法条例を巡る懸念から、一部の香港大富豪が個人資産を海外に移転し始めたと報じた。

富裕層は、中国政府がいずれ自分たちの資産を差し押さえられるようになる可能性を危惧し、海外への資産移転を考えている。WM企業は通常、顧客が資産を管理したいと望む場所で事業を行う。

逃亡法条例を巡る不透明感は、WM拠点としての香港の将来に影を落とす。香港は近年、シンガポールにお株を奪われつつある。

業界誌エイジアン・プライベート・バンカーが昨年公表した調査によると、最も望ましい海外WM拠点を尋ねる質問で、回答者の58%がシンガポールを挙げ、香港は2位、3位はスイスだった。

シンガポールは「規制、政治、金融の観点で中国本土との結び付きが(香港より)小さい」点が特に魅力とされた。

人材採用企業ボイデン(ロンドン)でWMの世界責任者を務めるラウル・セン氏によると、香港での人材採用を検討していた顧客のWM企業3社が、ここ数週間でシンガポールでの採用を決断した。「独立したWM拠点としての香港自体の将来が不確かな時に、なぜ香港と手を結ぶ必要があるのか」と考えた結果だという。

シンガポールの不動産物色

シンガポール金融通貨庁(中央銀行に相当)長官は27日、香港からシンガポールに企業や資金が大量にシフトしている兆候は見られないと述べた。

しかしシンガポールの不動産会社によると、不動産ファンド運用会社やファミリーオフィス(個人資産運用会社)、WM企業などからの問い合わせや訪問が増えている。

不動産会社ナイト・フランク(シンガポール)の投資・資本市場責任者、イアン・ロー氏は、投資家が事務所やホテルなど幅広い物件を物色していると話した。

同社の調査によると、シンガポールの優良事務所物件の月間家賃は今年第1・四半期に前年同期比24%上昇し、1平方メートル当たり81.2ドルとなった。香港中心部の家賃はこの間3.2%上昇して221.5ドル。

業界関係者は、逃亡法条例を巡る混乱を機に、香港の超富裕層がシンガポールの不動産を求める流れは加速すると見ている。ただ、大手金融機関も条件反射的に香港から逃げ出すかどうかについては、懐疑的な見方がある。

(Sumeet Chatterjee記者 John Geddie記者)

[香港/シンガポール 28日 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

ニューズウィーク日本版 大森元貴「言葉の力」
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年7月15日号(7月8日発売)は「大森元貴『言葉の力』」特集。[ロングインタビュー]時代を映すアーティスト・大森元貴/[特別寄稿]羽生結弦がつづる「私はこの歌に救われた」


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米「夏のブラックフライデー」、オンライン売上高が3

ワールド

オーストラリア、いかなる紛争にも事前に軍派遣の約束

ワールド

イラン外相、IAEAとの協力に前向き 査察には慎重

ワールド

金総書記がロシア外相と会談、ウクライナ紛争巡り全面
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 3
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打って出たときの顛末
  • 4
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 5
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    主人公の女性サムライをKōki,が熱演!ハリウッド映画…
  • 8
    【クイズ】未踏峰(誰も登ったことがない山)の中で…
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 7
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中