最新記事

米中貿易戦争

追加関税は回避するも長期化する米中対立 翻弄される日本企業

2019年7月1日(月)09時00分

手探りの日本企業

トランプ大統領が、米企業に対し、ファーウェイへの部品販売を容認する見解を示したが、日本企業は米政権の許容した範囲が、実際にはどこまでなのか今後、手探りで確認することになりそうだ。

半導体製造装置メーカー世界3位の東京エレクトロン<8035.T>は6月、米政府のブラックリスト(エンティティ・リスト、EL)に入れられた中国企業との取引を停止する方針を示したが、トランプ大統領が示した今回のファーウェイに対する規制緩和で、同社がELから除外されるのかどうかは、まだ、はっきりしない。

他の日本企業でも、トランプ大統領の規制緩和方針表明前の段階で、安全保障上の懸念のある製品の輸出・調達先の変更、知財管理の強化などに取り組んでいたが、さらに修正を迫られる可能性がある。

世界的にサプライチェーンを展開している日本企業は、コストと安全保障問題の狭間で、難しい判断を迫れている。

グローバルにビジネスを展開する企業にとって、今後は、今までのように安全保障問題を念頭に置かず、利益最優先で経営判断することが難しくなっているとの声が、専門家から出ている。

それでも、元特許庁長官で中曽根平和研究所副理事長の荒井寿光氏は「今や先端通信技術を牛耳る国が、軍事力で優位に立てる。米国は中国を世界市場から切り離して中国国内だけに閉じ込めようとしている。対中デカップリング政策の手を緩めることはしない」と、この先の展開を予見する。

また、G20大阪サミット終了後の会見で、トランプ米大統領が日米安保条約の片務性を指摘し、見直しに言及。日本政府は、日米両国間で安保条約の見直しが正式な課題に上っていないと否定的な見解を繰り返しているが、防衛インフラと脆弱な日本の通信インフラへの懸念の声が出始めている。

5G問題に代表される最先端技術と防衛問題が密接にリンクしているにもかかわらず、その主要製品を日本企業が生産できなくなっているため、防衛システムだけでなく、電力や鉄道、医療、行政といったあらゆる社会インフラが海外製通信インフラで稼働する可能性が高まっているためだ。

荒井氏は「安全保障の観点からも、他国の技術に依存した日本の経済社会インフラについて再考するきっかけにすべきだ」と指摘する。

また、データ管理についても、GAFAをはじめ、海外プラットフォーマーに情報を管理されている日本の現状は、再検討が必要であるとの見方を示した。

(中川泉 編集:田巻一彦)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

ニューズウィーク日本版 教養としてのBL入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月23日号(12月16日発売)は「教養としてのBL入門」特集。実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気の歴史と背景をひもとく/日米「男同士の愛」比較/権力と戦う中華BL/まずは入門10作品

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米総合PMI、12月は半年ぶりの低水準 新規受注が

ワールド

バンス副大統領、激戦州で政策アピール 中間選挙控え

ワールド

欧州評議会、ウクライナ損害賠償へ新組織 創設案に3

ビジネス

米雇用、11月予想上回る+6.4万人 失業率は4年
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 8
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「日本中が人手不足」のウソ...産業界が人口減少を乗…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中