最新記事

経営

日本企業はなぜ「お雇い外国人」に高額報酬を払うのか

2018年6月21日(木)18時05分
松野 弘(千葉大学客員教授)

もう辞めているのに報酬64億円は妥当か

2016年の「会社四季報」(東洋経済新報社)の「年収1億円超の上場企業役員530人リスト」のうちの「上位50人リスト」には、外国人役員が14名入っている。しかも、上位10名のうち、7名が外国人役員である。

そこで、「上位50人リスト」のうちの「外国人役員上位10人リスト」を抜き出してみると以下のようである。

matsuno180621chart_v2.png

出典:『役員四季報』東洋経済新報社、2016年/東洋経済オンライン2017年06月29日から、筆者が外国人役員を抜き出してまとめてもの

これをみても明らかなように、「外国人役員」は日本の大手企業の会長・社長に比べて、高額所得者であるのは間違いない。

すでに述べたように、1位のN.アローラ氏はソフトバンクグループの孫社長から後継社長候補者として招聘され、多額の入社準備金と高額報酬を付与された人物であるが、すでに同社を退社している。トヨタ自動車の社長、豊田章男氏はオーナー経営者でありながら、年間報酬は3億5100万円である。副社長のルロワ氏の方が高い報酬をとっているというわけだ。これが日本の経営者の報酬水準からみると、妥当かどうかはだれがみても明らかである。

もっとも、米国の大手企業のCEOの年間報酬は桁違いに高額である。参考までにあげておくと、高額報酬上位3人をみると、1位 トーマス・ラトリッジ(チャーター・コミュニケーションズCEO)約108億円、2位 レスリー・ムーンブス(CBSコーポレーション)約75億円、3位 デヴィッド・オコナー(マディソンスクエア・ガーデン・カンパニー)59億円となっている(ZUU online 2018年1月1日より。1ドル=110円換算)。

とはいっても、日本企業のCEO報酬と外国人役員の報酬とを比べると、外国人役員がいかに優遇されているかがよくわかる。

こうした優遇措置は企業が業績を確かにあげているのであれば理解できるが、ソニーブランドの市場価値を低落させた、ソニーの元CEOハワード・ストリンガー氏の経営失敗の教訓は、経営者選びを間違えると、法外な報酬をとられるだけとられて、会社の業績は限りなく倒産に向かう危険が常につきまとう事態を招くことになるということだ。

2005年に、業績低迷の責任をとって辞任した出井伸之CEOが後継社長に選んだのが、ソニーの原点である革新的な「モノ」づくりの専門家ではなく、アメリカの映画事業・映像事業を推進してきたソニー・アメリカのCEOストリンガー氏であった。

ソニーの成長基盤である技術イノベーションを強化しないで、映像事業等のソフト開発に多額の資金を投入した結果、ソニーは2009年3月赤字決算となり、大幅なリストラを行い、優秀な人材が社外に流出した。その後、ますます経営状況は悪化し、ストリンガー氏がCEOを退任する2012年まで、四期連続の赤字決算となり、累計赤字が9193億円にのぼった。

こうしたCEOの経営判断のミスによって、赤字決算になり、株価も就任当時の4000円台から1000円台まで落ち込み、市場からのソニーに対する評価は急落していったのである。それにもかかわらず、ストリンガー氏は高額な役員報酬を2009年に4億1000万円、2010年に8億1450万円、2011年に8億6300万円、2012年に4億4950万円(合計25億3700万円)を受け取っていたのである。

日本の企業であれば、赤字になれば、たとえ契約上、多額な報酬が約束されていても、経営の最高責任者であるCEOは役員報酬の大幅な削減か、経営赤字が黒字になるまで役員報酬返上というのが常識であり、経営者倫理である。

経営者が経営判断ミスの責任をとらないで、社員の大幅なリストラを含めたコストカットをするのは、欧米流の雇われCEOの常套手段である。自分の利益さえ守れば、従業員や取引先のことなどはどうでもいいのであろう。

企業がグローバル化戦略と称して、企業買収競争に走り、多額の借金をかかえ、挙句従業員のリストラをする一方で、高額報酬の外国人役員を雇用するのはいかがなものか。このような「ベニスの商人」的な金儲けを目的とする企業の経営倫理・経営政策・経営戦略そのもののあり方を、厳しく問うていく必要があるだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

従来の貿易システム「失われた」 WTO事務局長、改

ワールド

ECB総裁、原油供給混乱の長期化を警告 早期正常化

ワールド

イラン、スペインは「国際法順守」 ホルムズ海峡巡る

ワールド

欧州各国とカナダの防衛費、25年に20%増=NAT
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:BTS再始動
特集:BTS再始動
2026年3月31日号(3/24発売)

3年9カ月の空白を経て完全体でカムバック。世界が注目する「BTS2.0」の幕開け

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 2
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終回に世界中から批判殺到【ネタバレ注意】
  • 3
    「俺たちはただの人間だ」――BTSが新アルバム『ARIRANG』に託した想い、全14曲を【徹底分析】
  • 4
    意外と「プリンス枠」が空いていて...山崎育三郎が「…
  • 5
    デンマーク王妃「帰郷」に沸騰...豪州訪問で浮かび上…
  • 6
    まずサイバー軍が防空網をたたく
  • 7
    トランプが誤算? イラン攻撃延期の舞台裏、湾岸諸国…
  • 8
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」…
  • 9
    「予想よりも酷い...」ドラマ版『ハリー・ポッター』…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 1
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公開...母としての素顔に反響
  • 2
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ海峡封鎖と資源価格高騰が業績を押し上げ
  • 3
    「マツダ・日産・スバル」が大ピンチ?...オーストラリアの「NVES規制」をトヨタが切り抜けられた理由
  • 4
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 5
    レストラン店内で配膳ロボットが「制御不能」に...店…
  • 6
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」…
  • 7
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 8
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆…
  • 9
    イランは空爆により核・ミサイル製造能力を「喪失」…
  • 10
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 …
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中