最新記事

中国

中国人の欲しい物が変わった――アリババ越境ECトップ訪日の理由

2017年8月28日(月)11時14分
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

また、アリババグループ旗下の大手ECモール「タオバオ」では海外製品を販売するショップが続々と登場した。特に2008年にメラミン混入粉ミルク事件が起きた後、中国では一気に外国産粉ミルク需要が高まった(日本製の人気も高かったが、2011年の福島第一原発事故に伴う風評被害で需要は一気に激減した)。

海外製品の人気を受け、越境EC事業者が続々と誕生するなか、2013年に大きな転機が訪れる。それが保税区モデルの登場だ。

中国各地に設けられた保税区は関税上は外国扱いであり、通関手続きを行う必要なく保税区内の倉庫に輸入品を保管することができる。注文を受けた後、保税区から消費者に向けて発送するが、中国国内から送るため納期は短い。また個人輸入にあたるため「行郵税」という安い税率が適用される。

この保税区モデルの登場により、中国の越境ECは爆発的な人気を得た。2015年から2016年前半にかけては特に日本商品の注目が集まり、日本のドラッグストアでおむつや化粧品、医薬品など人気商品を買いあさってはコンテナで中国に送るという、にわか越境EC仕入れ業者が続出した。

ところが、2016年4月に中国政府は越境ECに関する制度変更を発表。1回あたり購入額・年間購入額の制限、ポジティブリストに記載された商品のみの保税区モデル適用、税額の調整などの内容だが、この新政策によって越境EC事業は混乱し、売り上げは大きく減少した。

グーグルが提供する検索回数の指標「グーグルトレンド」で調べたところ、日本での「越境EC」という単語の検索回数は2016年4月をピークにほぼ半減している。爆買いに続くホットトレンドと見られた越境ECだが、その勢いはすっかり失われてしまったかのようだ。

【参考記事】流行語大賞から1年、中国人は減っていないが「爆買い」は終了
【参考記事】「爆買い」なき中国ビジネスでいちばん大切なこと

買い物だけの旅行が喜ばれなくなり、使い分けの時代へ

その後、日本での報道量は減少したが、前述のように、実は制度変更前をしのぐレベルにまで回復・成長している。

今年7月、浙江省杭州市で大手越境EC企業「ネットイース・コアラ」の物流を担当する海倉の単力CEOに話を聞いた。同社の荷物取扱量は2016年3月には113万件だったが、規制が導入された4月には76万件にまで急落。その後は低空飛行が続いたが、2016年11月には132万件と変更前の水準に復活した。今年6月には340万件と大きく数字を伸ばしている。

「規制変更当初は政府と事業者のコミュニケーションがうまくいかず混乱が見られましたが、その後は理解が進んでいき、一部制度は施行が延期されるなど政府の対応も変わりました。今年3月には中国商務部から、越境ECについては個人輸入品として一般貿易よりも規制を緩和するとの方針が発表されたことで、業界の将来性がクリアになりました」と単CEOは言う。

Tモールグローバルの劉総経理も同様の意見だ。制度変更のリスクは今後もつきまとうものの、「越境EC支持という政府の大方針は明らかだ」と話している。

国内産業を保護する立場と反するのではと疑問をぶつけると、越境ECを規制すれば旅行先での購入や代理購入など別のルートが選ばれるだけ、越境ECビジネスを育てることは中国の経済成長にもプラスになるとの判断だろうと、見解を述べた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

FRB理事候補ミラン氏、政権からの利下げ圧力を否定

ワールド

ウクライナ安全保証、26カ国が部隊派遣確約 米国の

ビジネス

米ISM非製造業指数、8月は52.0に上昇 雇用は

ビジネス

米新規失業保険申請、予想以上に増加 労働市場の軟化
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...地球への衝突確率は? 監視と対策は十分か?
  • 2
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 3
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害」でも健康長寿な「100歳超えの人々」の秘密
  • 4
    「生きられない」と生後数日で手放された2本脚のダ…
  • 5
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 6
    【クイズ】世界で2番目に「農産物の輸出額」が多い「…
  • 7
    「あのホラー映画が現実に...」カヤック中の男性に接…
  • 8
    世論が望まぬ「石破おろし」で盛り上がる自民党...次…
  • 9
    SNSで拡散されたトランプ死亡説、本人は完全否定する…
  • 10
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 4
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 5
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 6
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 7
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...…
  • 10
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を呼びかけ ライオンのエサに
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中