最新記事

航空機

さらば、ジャンボジェット

2014年4月8日(火)16時47分
クライブ・アービング(英コンデナスト・トラベラー編集者)

エンジンがもたらす変化

 この安全基準の制約がなければ、経済的な側面にもっと目が注がれただろう。通称「ビッグツイン」と呼ばれる胴体の大きい双発機は、航空機として燃費が最適化されたモデルだ。

 だがビッグツインの洋上飛行が認められるまでには何年もかかった。1980年当時、米連邦航空局(FAA)長官だったリン・ヘルムスは、ボーイングの幹部に「双発機の洋上長距離飛行を認めるなら、地獄に落ちたほうがましだ」と言っていた。

 だがその5年後、FAAはそれを認めた。判断基準となったのは、片方のエンジンが故障した場合に、残ったエンジン1基でどれだけの時間、飛行が可能になるかだった。85年以前はその最適飛行範囲は60分とされ、時間内に双発機が空港に緊急着陸できるルートしか認められなかった。だがエンジンの性能が改善され、85年にはその時間が120分まで延長された。これによってボーイング初の大型双発機767は大西洋を越えることができるようになった。

 ボーイングのライバルとして急浮上したエアバスは、規制緩和に激しく抵抗した。大陸間飛行ができる新型4発ジェット機A340に力を入れていたからだ。彼らは、太平洋横断のような本格的な長距離飛行は4発エンジンのジェット機にしか認めるべきではないと、航空会社や政治家に対して働き掛けた。

 ボーイング777は双発エンジンの信頼性を証明し続けることで、エアバスの訴えに対抗した。FAAは00年、ボーイング777に空港まで207分かかるルートを飛ぶ許可を出し、777は太平洋横断が可能になった。この運航規制は後に、330分に延長された。

 ジェット機のエンジンはどれほど安全になったのか。安全基準では、少なくとも5万時間は故障しないことを求められている。これまでの記録では最長で30万時間故障なしで飛行できている。

 最近では、センサーが毎秒エンジン内部を監視し、問題が深刻になる前に発見される。その情報は航空機が目的地に到着する前に目的地の整備員に伝えられ、迅速な対処が可能になった。

 777が330分の運航規制をクリアしたことで、エアバスA340のメリットは失われた。A340は余分な2基のエンジンが搭載されているせいで777の燃料効率には対抗できず、11年に生産は終了された。だがこれは由緒あるボーイング747を現役で運航させる論拠が失われることを意味した。

 ボーイングは、747をしのぐ次世代大型ジャンボジェットの開発はしない決断を下した。エアバスは逆に、定員853人のスーパージャンボ(A380)を開発。つまりボーイングは、自ら開拓した市場をライバルに譲ったのだ。これは厳しく、長い検討を要する決断だった。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米ビザ免除制度のSNS情報提出義務付け案、観光客や

ワールド

米誌タイム「今年の人」はAI設計者ら、「人類に驚き

ワールド

タイ首相、議会解散の方針表明 「国民に権力を返還」

ワールド

米、新たな対ベネズエラ制裁発表 マドゥロ氏親族や石
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 2
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキャリアアップの道
  • 3
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれなかった「ビートルズ」のメンバーは?
  • 4
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 5
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 6
    【揺らぐ中国、攻めの高市】柯隆氏「台湾騒動は高市…
  • 7
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナ…
  • 8
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎…
  • 9
    ピットブルが乳児を襲う現場を警官が目撃...犠牲にな…
  • 10
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中