最新記事

金融

最新金融用語に見る危機防止の攻防

2013年12月12日(木)18時20分
マイケル・モラン

 それからというもの、アメリカの失業率が2009年以降で初めて7%を切った、という吉報が伝わっても、それがかえって外国で強い疑念を生むきっかけになってしまった。予想より早くテーパリングが始まるのではないか、というわけだ。

 だからFRBはテーパリングを人知れず慎重に進めている。しかし、テーパリングはいずれ訪れる。その時は、こんな用語を耳にするようになるだろう。

「ボルカー・ルール」――これは、銀行に対する新しいルールで、元FRB議長のポール・ボルカーの名に因んだものだ。ボルカーらが主導したこのルールは、巨大な銀行が巨大なリスクを負う金融取引を取り締まるもの。「巨大銀行は多くの預金者を持つことから取引に失敗しても政府が救済してくれる」という魂胆をつぶす目的がある。

 このルールは、08〜09年に起こった金融危機以降、最も重要で賛否の分かれるものだが、その内容はほとんど理解されていない。

「ドッド=フランク法」によって、巨大投資銀行では既に「自己勘定取引」で米政府保証資産の投機的売買をすることが禁じられている。

 しかし、銀行が証券取引所などの市場を通さずに自己資金を使って顧客のために株や債券を売り買いする「プリンシパル・トレード」も、市場を脅かしかねない。もしまた「政府は大き過ぎて銀行をつぶせない」と思えば、投資家は過大なリスクをとるからだ。

 12年にJPモルガン・チェース銀行が62億ドル(約6400億円)という巨額損失を引き起こした。取引と損失規模の大きさから「ロンドンの鯨」と呼ばれたこの事件では違法取引と隠ぺいも発覚した。こうした取引は、ボルカー・ルールがまさに今後標的にしようとしているものだ。同行は結局、約9億2000万ドルの罰則金を支払うことになり、2人の元行員が訴追された。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国首相、消費促進と住宅市場の安定を強調 経済成長

ワールド

トランプ氏「米にとり栄誉」、ウクライナ・欧州首脳ら

ワールド

ロシア、ウクライナに大規模攻撃 ゼレンスキー氏「示

ワールド

郵送投票排除、トランプ氏が大統領令署名へ 来年の中
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 2
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に入る国はどこ?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    AIはもう「限界」なのか?――巨額投資の8割が失敗する…
  • 5
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 6
    恐怖体験...飛行機内で隣の客から「ハラスメント」を…
  • 7
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 8
    40代は資格より自分のスキルを「リストラ」せよ――年…
  • 9
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 10
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 6
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 7
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 8
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 9
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 10
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中