最新記事

ボーイング

飛べない787にまた難題

飛行中のバッテリー火災で運航停止命令を受ける前から、ボーイングが787の飛行距離の延長を規制当局に求めてきた理由

2013年3月12日(火)17時03分
クライブ・アービング(英コンデナスト・トラベラー編集者)

 飛行中の機内でバッテリー火災が起こる。そんな衝撃的な事故が相次いだことで、ボーイング787型機ドリームライナーは奈落に突き落とされた。

 今年1月の事故以来、高価な次世代旅客機は米連邦航空局(FAA)をはじめ各国の航空当局から運航停止命令を受けている。世界中の空港で駐機させられ、飛べないままだ。

 際どいことに、ボーイング社は事故の数カ月前、FAAに対して787型機の洋上飛行距離の延長を可能にする許可を申請していた。緊急着陸が可能な代替空港まで5時間以上かかることになる航路だ。

 1月にバッテリー発火で緊急着陸した全日本空輸(ANA)機の場合、国内線だったこともあり空港までかかった時間はわずか16分だった。もしこれが5時間かかっていたら──。

 大西洋や太平洋を横断して長距離便を飛ばすために必要なこうした認定は、787型機の売り込みに必須の条件。だがどんな新型機も、完璧な安全運航実績を積み重ねなければ認定は得られない。

 特に787型機の場合、航空機ではあまり使われたことのない技術が多用されているにもかかわらず、ボーイングは一刻も早く長距離便を飛ばせるようにしようとしていた、とある当局者は言う。

 だが、FAAはボーイングの要求に屈しなかった。787型機の安全飛行記録はまだ不十分だった。事態を重く見た米国家運輸安全委員会(NTSB)が事故原因の究明に入った今、787型機の目標達成はさらに遠のいたといえよう。

「最適飛行範囲」を徐々に拡大していく形で航空安全を守る現体制「ETOPS(双発機の延長運航)」が、今回ほど深刻な問題に直面したのは初めてのことだと、航空専門家は言う。規制当局が参照できる前例もない。

 つまりボーイングは、787型機の事故でバッテリーの問題だけでなく、飛行可能範囲に関する許認可の問題も抱え込んだことになる。

規制緩和の急先鋒だが

 普段は忘れられがちだが、航空安全行政は飛躍的な進歩を遂げてきた。かつては、ジェット機が海を渡るときにはエンジンが1つ故障しても一番近い空港までたどり着けるよう、3つか4つのエンジンを付けることが義務付けられていた。
だが航空業界はそんな不経済に我慢できない。1970年代までに双発ジェット機が誕生して、規制緩和の原動力になった。双発機は燃費が良く、エンジン故障のリスクもほとんどない。最新の双発機では片方のエンジンだけでも飛行を続けることができる。

 規制緩和要求の急先鋒だったボーイングは、双発機による大西洋横断を要求。規制当局は当初、頑として抵抗した。1980年に、当時のFAA長官リン・ヘルムスがボーイング幹部に「双発機の洋上長距離飛行を認めるぐらいなら、地獄に落ちたほうがましだ」と言った話は有名だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル内閣、26年度予算案承認 国防費は紛争前

ビジネス

ネットフリックス、ワーナー資産買収で合意 720億

ワールド

EU、Xに1.4億ドル制裁金 デジタル法違反

ビジネス

ユーロ圏第3四半期GDP、前期比+0.3%に上方修
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 4
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 5
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 6
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 7
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 8
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 9
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 4
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中