最新記事

メディア

マードック帝国を揺るがすハッキング疑惑

ニューズ紙を廃刊に追い込んだ電話盗聴疑惑もかわいく見える、犯罪組織並みの情報収集疑惑が明らかに

2012年3月30日(金)14時56分
マイク・ギグリオ(ロンドン)

強欲の果て 傘下の新聞やテレビに他社を出し抜けと圧力をかけ続けたマードック Peter Macdiarmid/Getty Images

 イギリスのメディアはここ数カ月、ロンドン南西部キングストンの刑事法院で繰り広げられている裁判に注目してきた。

 この裁判で問われているのは、メディアが銀行の取引明細や病歴などの個人情報を違法に入手する慣行だ。多くの場合は、私立探偵が電話で本人に成り済ますなどして、こうした情報を入手しメディアに売る。英メディアにこうした慣行がはびこっていることは以前から知られていた。今回の裁判では4人が起訴されている。

 先週、法的規制が解かれて被告の1人の実名を報道できることになった。その人物は私立探偵のフィリップ・キャンベル・スミスで、別件でも捜査対象となっている。メディア王ルパート・マードック傘下のタブロイド紙ニューズ・オブ・ザ・ワールドに頼まれ、他人のコンピューターに侵入して個人情報を集めた疑いだ。

 ニューズ紙は昨年夏、電話盗聴疑惑で大きな非難を浴び、既に廃刊になっている。反マードック派の一部は、今後さらにコンピューター侵入疑惑が噴き出せば、マードックが大打撃を受ける可能性があるとみている。議会で電話盗聴疑惑を追及してきたトム・ワトソン議員は、コンピューター侵入が事実なら、電話盗聴など「吹っ飛ぶほどの」大スキャンダルだと言う。

 マードック傘下の複数のイギリスのタブロイド紙で、記者が他人のコンピューターに侵入していたとの疑惑はしばらく前から報じられてきた。

 ニューズ紙には、女優のシエナ・ミラーや連続殺人犯の息子クリストファー・シップマンの電子メールを盗み見ていた疑いがかけられていた。権威あるタイムズ紙でさえスクープを取るために、ある若手記者が匿名ブロガーのメールアカウントに侵入していたという。

 とはいえ、いま最も注目されているのは英諜報機関の元職員イアン・ハーストの申し立てだ。彼の証言によれば、探偵スミスはマードック傘下のタブロイド紙の依頼で、ハーストのコンピューターに侵入していたという。

 ハーストは英陸軍のために、IRA(アイルランド共和軍)内部の情報提供者と接触していた。各種報道によると、スミスは06年にトロイの木馬ウイルスを使ってハーストのコンピューターに侵入。メールを盗んでニューズ紙のダブリン支局にファクスしていた疑いが持たれている。この件は、ロンドン警視庁が捜査中という。

メディア各社に情報提供

 ファクスの存在を知って、ハーストはスミスと接触し、口を割らせてその会話を録音した。そのテープの中で、スミスは比較的簡単に侵入できたと認めている(「あんたにメールを送って、あんたがそれを開けたら、はい、おしまい。もうこっちのものだ」)。また、自分を雇ったのはニューズ紙の元編集者アレックス・マルンチャクだとも打ち明けている。マルンチャクはその後、06年にニューズ紙を去った(本人はスミスとの関係を否定している)。

 ハーストによれば、その後ニューズ紙は同じ手口で、「ステークナイフ」のコードネームで知られる諜報部員に関する情報も入手したらしい。報道によれば、マルンチャクは私立探偵ジョナサン・リーズを介してスミスに依頼していた。リーズもニューズ紙絡みで問題になった人物で、彼が経営する調査会社は、ニューズ紙のライバル紙デイリー・ミラーとサンデー・ミラーにも情報を流していた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、イランに「48時間以内」と圧力 イスラ

ワールド

アングル:インド、酷暑で電力・水インフラに負荷 需

ワールド

トランプ氏が閣僚刷新検討 イラン戦争が打撃 選挙控

ワールド

商船三井のLPG船がホルムズ海峡を通過 日本関係2
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始めた限界
  • 2
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐせ・ワースト1
  • 3
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 4
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙…
  • 5
    「高市しぐさ」の問題は「媚び」だけか?...異形の「…
  • 6
    イラン戦争は「ハルマゲドンの前兆」か? トランプ…
  • 7
    【写真特集】天山山脈を生きるオオカミハンター
  • 8
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ…
  • 9
    中国は「アカデミズムの支配」を狙っている? 学術誌…
  • 10
    血圧やコレステロール値より重要?死亡リスクを予測…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始めた限界
  • 3
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 4
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が…
  • 5
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 6
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐ…
  • 7
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 8
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 9
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受…
  • 10
    中国がイラン戦争最大の被害者? 習近平の誤った経…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中