最新記事

米経済

アメリカをデフォルトに追い込む共和党の狙い

政府の債務上限引き上げの条件に社会保障費の大幅削減を求める瀬戸際政策は、リーマン・ショック以上の危機を招きかねない

2011年6月22日(水)16時24分
デービッド・ケース

再起不能? アメリカが債務不履行に陥ればウォール街は二度と立ち直れないかも Brendan McDermid-Reuters

 左派寄りのシンクタンク、経済政策研究センターの創設者でエコノミストのディーン・ベイカーの話には、耳を傾ける価値がある。何しろ彼は、低所得者向け住宅ローン「サブプライム」のバブル崩壊を予測していた数少ない一人。彼よりずっと高額の報酬を得ていたウォール街のプロたちが焦げ付き間近のサブプライムローンにカネをつぎ込み、巨額のボーナスをせしめていた頃、ベイカーはサブプライムローンが危機的な状態に陥ると力強く予言していた。

 そのベイカーが今、アメリカにさらなる危機が迫っていると警告している。

 オバマ政権は、連邦政府の債務上限を8月2日までに引き上げなければ、政府がデフォルト(債務不履行)状態に陥る恐れがあるとして、債務上限引き上げの容認を議会に求めている。だが共和党は強硬に反対し、引き上げ幅と同程度の大規模な歳出削減を行わない限り、提案には応じないと主張。ベイカーに言わせれば、共和党のこの「瀬戸際政策」は、アメリカ経済はもちろん、共和党の重要な支持基盤であるウォール街にも甚大な打撃をもたらす愚策だ。

金融界で数百万人が解雇される

「債務上限の引き上げができなければ経済にとってマイナスなのは間違いない」と、ベイカーは書いている。さらに、米政府のデフォルトは「08年9月のリーマン・ブラザーズの倒産以上に株式市場を揺さぶるだろう」として、先の経済危機以上に深刻な危機が訪れると予測。金融市場は壊滅的な打撃を受け、人件費を払えなくなった企業は「何百万人もの従業員を解雇」せざるをえなくなると指摘している。

 驚くべきことに、共和党はまさにそんな大混乱を望んでいるようだ。彼らが思い描くのは、国家財政のデフォルトによって、メディケア(高齢者医療保険制度)やメディケイド(低所得者医療保険制度)といった社会保障コストの大幅削減をオバマ政権が受け入れざるをえなくなるというシナリオだ。

 だがベイカーによれば、デフォルトが起きた場合の真の犠牲者はウォール街だ。「国家がデフォルトに陥れば米国債の価値が下がり、ほぼすべての大手金融機関が破綻する」と、ベイカーは言う。そして、その痛みは長きに渡って続く。

「経済が復活したとしても、アメリカの金融部門は二度と世界における現状の地位を取り戻すことはできない。米政府という強力な後ろ盾がなければ、ウォール街の連中はもう二度と金融の国際市場で中心的な存在にはなれないだろう」 

GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア、新START延長巡り米の回答待ち=外相

ワールド

情報BOX:中国、軍事演習で台湾威圧 過去の海峡危

ワールド

米、イスラエル向けF15戦闘機の契約発表 86億ド

ワールド

トランプ氏「台湾情勢懸念せず」、中国主席との関係ア
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 5
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 6
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 7
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中