最新記事

エネルギー

サウジ増産でも1バレル150ドルの恐怖

原油価格の高騰を食い止めるためにサウジアラビアが増産を発表したが、既に生産量はほぼ限界に達しているとの見方も

2011年2月28日(月)17時28分
デービッド・ケース

真の実力は? 米石油業界の大物ブーン・ピケンズは、サウジアラビアには日量1200万バレルの生産能力はないと指摘する Ali Jarekji-Reuters

 中東各国に政情不安が広がり、原油の供給不足への懸念は募る一方。そんな中で世界最大の産油国サウジアラビアは2月24日、原油の増産を発表して市場を一安心させた。

 ところが翌日、テキサス州の石油業界の大物ブーン・ピケンズ(82)が、サウジアラビアには十分な余剰生産能力がないかもしれないと指摘した。

 日量130万バレルの生産量を誇るリビアでは、カダフィ政権打倒の機運が高まり、原油の供給はストップ状態。ロイター通信によれば、その不足を補うために、サウジアラビアはすでに原油生産量を一日当たり70万バレル増の900万バレル超に引き上げているが、当局はさらに1200万バレルまで増産できると主張している。

 これに対して、「1200万バレルの生産能力はないと思う」と、ピケンズは語る。「1000万バレルでも驚きだ」

油田の老朽化で増産に対応できず

 ピケンズの指摘が正しければ、サウジアラビアの生産量はすでに限界に近いレベルまで達していることになる。「リビアの減産を補えるのはサウジアラビアだけだ。サウジアラビアにすべての命運を託している事態は異常だ」

「仮にアルジェリアやバーレーン(の政情不安)によって生産量が200万バレルほど減ったら、原油価格は1バレル当たり150ドルに高騰することもあり得る。1バレル当たり130ドルでアメリカのGNP(国民総生産)のうち経済危機以降に増加した分は吹き飛び、180ドルになれば経済危機に逆戻りだ」

 先週には、北海ブレント原油の先物価格が2年半ぶりの高値となる119ドル台を記録した(その後はサウジアラビアの増産発表を受けて、112ドル以下に下がった)。

 原油価格の安定化に乗り出したのはサウジアラビアだけではない。主な石油消費国でつくる国際エネルギー機関(IEA)も、大規模な供給不足に備えて加盟国に16億バレルの備蓄があることを強調した。ただし、原油価格を安定させるために備蓄を利用することに警告を鳴らす専門家もいる。

 ピケンズがサウジアラビアの余剰生産能力に疑念を呈するのは、経済危機に先立って原油価格が異例の高値を記録した際に、老朽化した油田が増産に対応できなかったためだ。ただし、情報公開が進んでいないため、サウジアラビアの内情を正確に言い当てるのは困難だ。「埋蔵量の査定が認められないので、正確な産油量を知るのは不可能だ」(CIAワールドファクトブックによれば、サウジアラビアの09年の生産量は一日当たり推定976万バレル)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米PCE価格指数、3月前月比+0.3%・前年比+2

ワールド

ベトナム国会議長、「違反行為」で辞任 国家主席解任

ビジネス

ANAHD、今期18%の営業減益予想 売上高は過去

ワールド

中国主席「中米はパートナーであるべき」、米国務長官
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 8

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中