最新記事

アメリカ経済

量的緩和第2弾は米経済を救うか

08〜09年に行った前回とは状況も課題も変わっているので、違うアプローチが必要だが

2010年10月25日(月)15時57分
アニー・ラウリー

難しい舵取り 11月2〜3日の連邦公開市場委員会を前に、バーナンキFRB議長の言動に高い注目が集まっている Yuriko Nakao-Reuters

 アメリカ経済の最大の問題は、需要が不足していること。消費者や企業が車や機械を買わないので、経済も成長しない。こういうとき、FRB(米連邦準備理事会)は伝統的に利下げで需要を喚起してきた。しかし金利水準がほぼゼロに近い今は、その手も使えない。

 そこで登場するのが伝家の宝刀、「量的緩和(QE=Quantitative Easing)」。市場関係者は、11月2〜3日の連邦公開市場委員会(FOMC)でFRBが5000億〜1兆2000億ドル規模のQEを発表するとみている。

 QEとは、簡単に言えば新たな金を印刷して経済成長のために使う政策。実施されれば2度目となるので「QE2」と呼ばれる。FRBは今回、銀行などが持つ国債を買って銀行に資金を注入。銀行融資を通じて、間接的に経済を刺激するつもりだ。

 しかし、多くのエコノミストはその効果に懐疑的。08年後半〜09年に行ったQEでは、FRBは1兆7000億ドル規模の資金を投じて金融機関の経営を圧迫していた不良債権を購入し、金融機関の経営安定化を図った。

 当時と現在では経済の状況が変わっているため、QE2も前回とは違うアプローチが必要になる。しかし、あまり期待し過ぎないほうがいいかもしれない。

 人々がQEに期待する第1の効果は、銀行融資の増加。しかし銀行融資が増えないのは資金がないせいではない。借りたい人や企業がいないせいだ。

 第2の期待は、FRBの買い取りで国債の価格が上がること。価格が上がれば利回りが下がるので、大手機関投資家も国債以外の投資先を探し始めるかもしれない。ただし、巨大で国際的な米国債市場に影響を及ぼすのは容易なことではない。

 第3の期待は、国債価格の上昇で国債を保有する大口投資家の懐が豊かになり、株式投資や事業投資などリスクの高い投資に積極的になること。だが、FRBには実体経済の条件自体を変えることはできない。もし今の経済に投資機会を見いだしているなら、投資家はとっくに積極的になっていたはずだ。

 前回のQEは、住宅ローン債権の劣化を止めて信用不安を抑えたからうまくいった。しかし今の問題は不良債権ではなく、安全な資産だけに投資が集中し過ぎていることだ。それでも、QEを試す以外に選択肢はない。

Slate.com特約)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中