最新記事

新興国

「五輪」主催でバレたインドの後進ぶり

4年に1度の英連邦大会を成功させて国力を示すはずが、道路を何度も掘り返しているうちに時間切れに!

2010年9月8日(水)18時12分
スディブ・マズムダル(ニューデリー支局)

政府はパニック メーンスタジアムの建設さえ遅々として進まない(8月12日、ニューデリー) Adnan Abidi-Reuters

イギリス連邦諸国が集う4年に1度のスポーツの祭典「英連邦競技大会」が10月3日、インドのニューデリーで開幕する。

 この大会は、経済大国インドの台頭を印象づける格好の舞台となる予定だった。だが実際には、インドは世界中が見守る中で大恥をかくことになりそうだ。スタジアムは未完成で、予算はすでに大幅オーバー。汚職や管理不行き届きの告発も相次ぎ、国民の自信は大きく揺らいでいる。
 
 英連邦競技大会は、スコットランドやカナダ、オーストラリアからマン島まで英連邦に属する54の国や地域から71チームが参加し、短距離競技や競泳などの種目で競い合う一大イベント。インドが栄誉あるホスト国に決まったのは2003年のことだったが、17の会場の新築工事や改良工事は2年ほど前にようやく始まった。

 大会の準備を統括する部署は存在せず、政府内の21もの部署が関与。司令塔不在のまま、多くの部署が縦割りで動くので、ある部署が舗装した道路を他の部署が掘り返すことも。メインスタジアムの近くを走る2本の幹線道路では、異なる部署がそれぞれに地面を何度も掘り返しては道路を拡張したり、下水管を敷設したり、歩道にタイルを張ったりしていた。

エリザベス女王も有力選手もパス

 土地買収絡みの訴訟が起きたり、環境被害に関する調査が遅れたことも、事態をますます悪化させた。かかった経費は、03年当初の予算計画の10倍近い50億ドル以上に膨れ上がったが、ニューデリーの汚さは相変わらず。街全体が、がらくたの山と雨漏りする屋根、掘り返された歩道、大きな水たまりの点在する巨大な建設現場のように見える。

 さらに、デング熱の流行(1100人ほどが感染し、3人が死亡)も、国民や出場国のパニックを煽っている。大会の組織委員会には感染の拡大防止対策について20カ国から問い合わせがあり、4カ国は旅行者に注意勧告を出した。さらに今年は異例の巨大モンスーンがインドを襲ったせいで大きな水たまりが多く、デング熱を媒介する蚊が繁殖しやすいという悪条件も重なっている。

 イギリスのエリザベス女王は40年以上に渡って大会を一部観戦してきたが、今回は訪問を取りやめ、代わりにチャールズ皇太子を送る。短距離走者ウサイン・ボルト(ジャマイカ)や自転車競技のクリス・ホイ(イギリス)などの有名選手も出場を見合わせるという。
 
 悪い話はまだ続く。16もの大会関連の建設プロジェクトで、経費の不正流用が発覚。市場価格で2.5ドル程度のゴミ箱が、20倍近い価格で3771個も購入されるなど、さまざまな備品が大幅な水増し価格で買われていた。

 インドの新聞各紙が、経費の水増しを正当化するための偽造メールや意思決定のいい加減さ、参加国の間に広がる大会への無関心を報じたにもかかわらず、大会関係者の身内や友人が工事契約を請負ったケースも多い。

 不信感が広がる参加国の中には、選手の家族が観戦を取りやめる動きもある。観戦チケットがまったく売れていない国もあり、開幕まで4週間を切っても開会式のチケットの半数が売れ残っている。

シン首相が工事現場ではっぱをかけるが

 インド・タイムズ紙がデリー市民を対象に行った世論調査では、半数近くがインドのイメージが傷ついたと感じており、3分の2が経費の不正使用のせいで大会が台無しにされたと答えた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ハリコフ攻撃、緩衝地帯の設定が目的 制圧計画せずと

ワールド

中国デジタル人民元、香港の商店でも使用可能に

ワールド

香港GDP、第1四半期は2.7%増 観光やイベント

ワールド

西側諸国、イスラエルに書簡 ガザでの国際法順守求め
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中