最新記事

景気

米住宅「未曾有の減少」ぐらいで驚くな

中古住宅の販売激減の裏では、在庫物件とローン延滞者が急増している。政府の景気対策で見えにくかっただけだ

2010年8月25日(水)18時00分
ジェームズ・レッドベター

悪循環 剰在庫のせいで価値が下がり、買い替えが進まない Robert Galbraith-Reuters

 8月24日、アメリカの中古住宅販売件数が未曾有の落ち込みを記録したことが報じられると、関係者の間に激震が走った。7月の中古住宅販売件数は前月比27%減の383万戸。ワシントン・ポスト紙は、この数字は「ブルームバーグ・ニュースがまとめたアナリストらの予想値の2倍」に相当する深刻な落ち込みだと伝えた。

 本当に? 予想がそんなに大幅に外れるなんて、一体どんなアナリストだ? 確かに、住宅ローンの低い金利だけを判断材料にすれば、中古住宅販売が伸びると予想するかもしれない。だが、投資情報ブログを主宰するバリー・リトホルツが指摘したように「中古住宅市場がダメになることは皆わかっていた」。

 兆候は何カ月も前からあった。まず、住宅購入者に対する税額控除などの政府の支援策が4月末に打ち切られたこと。ただし、住宅市場が冷え込む背景には、それ以上に大規模かつ永続的な力が作用している。

 その一つが、市場に異例の数の中古住宅があふれていることだ。米不動産業者協会(NAR)の8月24日付のリリースによれば、7月末の中古住宅在庫は2.5%増の398万戸。今の販売ペースを前提とすると、12.5カ月分の在庫に相当する。通常、在庫は6カ月程度が適当と考えられており、12.5カ月という数値は1982年10月以来の高水準だ。

差し押さえ対策のパラドックス

 でも、市場に出回る中古住宅が増えれば、価格が下がり、販売戸数が増えるのでは? 確かに、他の商品ならそうなる場合もある。

 しかし、住宅の場合、もっと別の要素も絡んでいる。住宅所有者は、そんな安値では自宅を売却したくない。住み替えを考える家庭が減れば住宅需要が弱まり、販売戸数も減るのだ。

 さらに、中古住宅市場には別の暗雲も垂れこめている。住宅ローンを返済できない多数のアメリカ人の存在だ。

 政府による支援や4四半期連続の経済成長にもかかわらず、住宅ローンの滞納率は依然として高い。経済ニュースサイト、ザ・ビッグマネーのマーク・ギメインが4月に的確に指摘したように、ローン延滞率の高さは、住宅市場を一見回復しているようにみせつつ、実際には市場を冷え込ませるという二重の悪影響を及ぼしている。

 最後にギメインの記事を引用しよう。「政府の圧力と(金利の引き下げや返済期間延長などの)ローン契約の見直し努力、それに低迷する不動産市場で差し押さえ物件を売るのを躊躇するムードが重なったおかげで、金融機関は支払いが滞っている借り手の担保物件を差し押さえず、ローンの延滞を放置している」

「これは差し押さえ対策が引き起こすパラドックスだ。確かに、差し押さえ件数が減少すれば一部の人は自宅を失わずにすむし、不動産市場へのテコ入れ効果にもなる。だがその陰で、ローン利用者の財政事情はますます苦しくなっている」

Slate.com特約)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

途上国の債務問題、G20へ解決働きかけ続ける=IM

ビジネス

米アマゾン、年末商戦に向け25万人雇用 過去2年と

ワールド

OPEC、26年に原油供給が需要とほぼ一致と予想=

ビジネス

先週末の米株急落、レバレッジ型ETFが売りに拍車=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 3
    車道を一人「さまよう男児」、発見した運転手の「勇敢な行動」の一部始終...「ヒーロー」とネット称賛
  • 4
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃を…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 7
    連立離脱の公明党が高市自民党に感じた「かつてない…
  • 8
    1歳の息子の様子が「何かおかしい...」 母親が動画を…
  • 9
    ウィリアムとキャサリン、結婚前の「最高すぎる関係…
  • 10
    あなたの言葉遣い、「AI語」になっていませんか?...…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル賞の部門はどれ?
  • 4
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    トイレ練習中の2歳の娘が「被疑者」に...検察官の女…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中