最新記事

オーストラリア

初の女性首相ジュリアは自然体

48歳、独身。「完璧な女性」像にこだわらないジュリア・ギラードは、誹謗中傷に負けることなく新しい政治家像を示せるか

2010年7月28日(水)16時20分
ジュリア・ベアード(米国版副編集長)

女性 8月21日に与党党首として初めて総選挙の洗礼を受けるギラード(写真は6月24日) Mick Tsikas-Reuters

 うれしい驚きだ。ジュリア・ギラードがオーストラリア初の女性首相に就任した。喝采が起こり、メディアは大騒ぎで、オーストラリアの女性たちはソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)のフェースブックのステータス(メッセージ)を更新した──「ジュリア」とひとこと書いて喜びを表現した。

 理想的な状況ではなかった。かつては高い支持率を誇ったケビン・ラッド前首相を辞任に追い込み、与党・労働党の党首に選出されて首相になった。総選挙で勝ったわけではない。

 それでも重大な意義のある瞬間だ。数百年間、英女王にひれ伏しつつ、政府の最高権力から女性を締め出してきた国で、女性が本物の権力を手にしたのだ。

 48歳のギラードは炭鉱作業員の娘として生まれ、組合活動や労使関係の弁護士を経て政治の世界に入った。政治的アプローチは実用主義。労働党左派出身で広く尊敬されている。

 オーストラリア連邦議会の女性議員の数は今や約3分の1(米連邦議会ではわずか16・8%)。しかし歴史的に、女性は国政政党の指導者候補と持ち上げられたかと思えば、激しく攻撃されてきた。

 これまで多くの女性政治家は、理想の女性像を演じて女性らしさを証明しなければならないという強迫観念を抱いてきた(ヒラリー・クリントン米国務長官は夫ビルが大統領選に立候補した際、自分は家でクッキーを焼くような女性ではないという発言で反感を買い、その後チョコレートチップクッキーのレシピを披露した)。

保守派とやり合う論客

 しかしギラードは、そういう意識に駆られていない。率直で気取りがなく、政界を慎重に渡り歩きながら、挑戦的なほど自分らしさを守ってきた。そこが彼女の最大の魅力でもある。

 自宅台所の写真で果物入れが空だったため、料理ができないのかと騒がれると、自分は家庭的ではないと認めた。子供のいないギラードをあるリベラルな議員が「故意の不妊」と侮辱したときも、議員を「古い男性」と斬り捨てた。

 裏を返せば、ギラードは「未来の女性」なのだろう。政界に入ると同時に期待の新星となり、どんな野心を抱いているのかと常に詮索されてきた。

 野党時代には、もし自分が党首になれば「リーダーシップの概念が国全体で変わるだろう」と、ある記者に語った。「周囲の言いなりで、スーツを着て、育ちはいいが退屈なタイプの政治家に人々は飽きている。彼らとは違う人が求められていて、もちろん私は自分が彼らとは違うと思っている」

 確かに彼女は違う。女性だからというだけでなく、ミニブログサービスのツイッターで誰かがつぶやいたように「未婚女性の無神論者で赤毛で移民の首相」だからだ(未婚の首相はオーストラリア初だが、赤毛は2人目)。

 女性政治家の先駆者は大半が保守派だ。ゴルダ・メイア元イスラエル首相も、インディラ・ガンジー元インド首相、マーガレット・サッチャー元英首相も。

 ギラードは政治家としてはリベラルだが、労働党の路線からは大きく外れていない。前政権で副首相と教育相、雇用・職場関係相を兼務。勤勉かつ有能で、集中力があると言われている。口の悪い保守派との論戦を楽しむ強力な論客でもある。

 彼女にとって目下の最大の難関は、自分がラッド前首相とは違うと証明することだ。彼女はラッドの4人の「私設顧問団」の1人でもあった。副首相として首相と共に決断を下し、前政権の責任は「相応に」負うとも認めている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ、東部要衝都市を9割掌握と発表 ロシアは

ビジネス

ウォラーFRB理事「中銀独立性を絶対に守る」、大統

ワールド

米財務省、「サハリン2」の原油販売許可延長 来年6

ワールド

中国、「ベネズエラへの一方的圧力に反対」 外相が電
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 10
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中