最新記事

財政赤字

世界が突っ走る緊縮財政の罠

2010年7月14日(水)15時37分
ダニエル・グロス(ビジネス担当)

オバマ政権の政治的計算

 アメリカの場合は別の要因が働いている。失業率は高く、長期金利は記録的な低水準、インフレは抑制されており、民主党は中間選挙で議席を失う見込みだ。こうした状況で景気刺激策を拡大するのは簡単なように思える。

 しかし、93年にクリントン政権を混乱させた内輪もめが再び繰り返されている。当時、ロバート・ルービン大統領補佐官とロバート・ライシュ労働長官が赤字削減か、景気刺激かで対立。結局、赤字削減を訴えるルービン派が勝利した。

 17年後の今、オバマ政権には別の思惑がある。短期的な赤字増大のほうが、成長鈍化と失業率上昇より政治的リスクが大きいというものだ。だが、そうした議論は州政府による緊縮策を見落としている。州政府は連邦政府と違い、赤字の垂れ流しは法律上許されない。

 米シンクタンク「予算・政策研究所(CBPP)」の試算では、08年または09年に33州が増税した結果、年間の税収は総額317億ドル増える見込みだ。一方で各州政府は5月、2万2000人の人員を削減した。「景気後退の影響と財政均衡の義務から州が実施している対策が、経済を減速させている」と、CBPPのニコラス・ジョンソンは言う。

 財政縮小によって経済成長を実現するのは難しい。世界の主要国は、将来の成長促進のため短期的には赤字を増大させ、その穴埋めは後回しにする必要がある。

 かつて古代キリスト教最大の神学者アウグスティヌスは神にこう祈った。「われに性的禁欲と自制を与えたまえ。ただし、しばしの猶予を」。政策立案者はケインズ派でも反ケインズ派でもなく、アウグスティヌスを見直すといい。緊縮財政と赤字削減は必要だが、今はまだ早過ぎる。

[2010年6月23日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国、26年投資計画発表 420億ドル規模の「二大

ワールド

ロシアの対欧州ガス輸出、パイプライン経由は今年44

ビジネス

スウェーデン中銀、26年中は政策金利を1.75%に

ビジネス

中国、来年はより積極的なマクロ政策推進へ 習主席が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 5
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 8
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 9
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中