最新記事

原油流出事故

BPトップはPR史上最悪の失言男

このCEOにしてこの事故あり。石油大手とは思えない認識の甘さや危機管理能力のなさを露呈した恐ろしい発言の数々

2010年6月3日(木)17時47分
ラビ・ソマイヤ

海は広いから大丈夫? ヘイワードは、原油流出のダメージを小さく見せようとしてかえって傷を広げている(5月28日、メキシコ湾で) Sean Gardner-Reuters

 企業が世間の非難を浴びているときに、会社のトップが不適切な発言をして火に油を注ぐケースは、昔から枚挙に暇がない。投資銀行大手ゴールドマン・サックスのロイド・ブランクファイン会長は昨年、同社が金融危機の一因になったことについて問い質され、自分たちは「神の仕事」をしていたと発言してひんしゅくを買った。

 もっとも、メキシコ湾で原油流出事故を起こした英石油メジャー、BPのトニー・ヘイワード最高経営責任者(CEO)の失言癖に比べれば、ブランクファインの発言すらかわいく見える。

 4月20日に発生した原油流出事故では、作業員11人が死亡。メキシコ湾は錆び色の原油で覆われ、一帯の生態系と沿岸部の経済は壊滅的な打撃を受けている。

 BPは当初、石油の流出は日に1000〜5000バレルと見積もっていたが、実際には1万2000〜1万9000バレルに達するとみられる。流出量はすでにアメリカ史上最大。流出を早期に止める方策もなさそうな状況を前にすると、1989年にアラスカで発生した原油タンカー、エクソン・バルティーズ号の原油流出事故も小さく見える。

 ヘイワードの問題発言を振り返ってみよう。

■4月29日 ニューヨーク・タイムズの報道によれば、苛立ったヘイワードはロンドン本社の自室で幹部らに向かい、「一体、どうして我々がこんな目に合うんだ」と発言した(あなたの会社が過去3年間に760件もの安全規定違反を犯していたからでは? ちなみに、エクソンモービル社の違反は1件のみ)

■5月14日 英ガーディアン紙に対し、「メキシコ湾は広大だ。海全体の水の量に比べれば、流出した石油と分散剤の量など微々たるものだ」と弁明した

■5月18日 スカイ・ニュースの番組に出演し、「この災害の環境への影響はおそらく非常に小さいだろう」と発言。環境被害は甚大で、全容は今も計り知れないと考える多くの科学者にとっては驚愕のコメントだ。

■5月30日 楽観的な態度を改め、同情を買う作戦に転じるつもりでトゥデイ・ショーに出演し、「私は誰よりも終結を望んでいる。自分の生活を取り戻したい」と言ってしまった(後に謝罪)

■5月31日 部分的に溶解した原油が海中を浮遊する様子を多くの科学者が目撃しているが、ヘイワードは生態系を脅かす汚染物質の存在を否定。「汚染物質などない」と反論した

■6月1日 原油の除去作業に当たる作業員がガスを吸い込んで吐き気や頭痛、呼吸困難を訴えたのに対し、流出した原油のせいではないとの持論を展開。ヤフー・ニュースによれば、作業員9人が体調を壊したことに対し、ヘイワードはCNNに「明らかに食中毒も大きな問題である」と話したという。

 もっとも、手ごわい証拠を目の当たりにして、なんとか自社に都合のいい解釈を広めようと画策するのは、ヘイワードだけではない。BPのマネジング・ディレクターであるボブ・ダドリーは5月30日、NBCの報道番組「ミート・ザ・プレス」に出演し、「トニーの仕事ぶりは見事だ」と語った

 この発言、ハリケーン・カトリーナがメキシコ湾沿岸を襲ったときのジョージ・W・ブッシュの言葉にそっくりだ。ブッシュは、対策の遅れを批判されていた米連邦緊急事態管理庁(FEMA)長官のマイケル・ブラウンのことを、「すばらしい仕事ぶりだ」と褒め称え、激しい反発を買った。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

FRBバランスシート縮小なら利下げ可能=ウォーシュ

ビジネス

訂正英中銀、0.25%利下げ 関税が成長・インフレ

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏の8日の電話会談、「非常

ワールド

ウクライナに「重大な空爆の可能性」、米大使館が警告
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 2
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノーパンツルックで美脚解放も「普段着」「手抜き」と酷評
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    教皇選挙(コンクラーベ)で注目...「漁師の指輪」と…
  • 5
    恥ずかしい失敗...「とんでもない服の着方」で外出し…
  • 6
    骨は本物かニセモノか?...探検家コロンブスの「遺骨…
  • 7
    「金ぴか時代」の王を目指すトランプの下、ホワイト…
  • 8
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 9
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..…
  • 10
    中高年になったら2種類の趣味を持っておこう...経営…
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 7
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 8
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 9
    野球ボールより大きい...中国の病院を訪れた女性、「…
  • 10
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中