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MSナタルがWiiを追い詰める

失速する任天堂Wiiを追撃すべく、マイクロソフトとソニーが新ゲーム機投入の準備を着々と進めている。「モーション検知コントローラー戦争」を制するのはどのメーカーか

2009年11月6日(金)17時04分
ニック・サマーズ

簡単操作 ナタルは体全体の動きを赤外線センサーとカメラが検知して画面に映し出す(09年6月、ロサンゼルス)©Fred Prouser-Reuters

 1977年にゲームメーカーのアタリ社が開発したジョイスティックが人気を博してから、テレビゲームのコントローラーにつくボタンは増える一方だった。だが任天堂はより簡単で楽しいモーション検知コントローラーを採用したWiiを06年の発売開始以降、全世界で5000万台以上売った。マイクロソフトのXbox360とソニーのプレイステーション3の合計にほぼ等しい数だ。

 とはいえ「スーパーマリオブラザーズ」のファンなら知ってのとおり、無敵な状態は永遠には続かない。09年上半期、任天堂の純利益は前年同期比52%マイナスの7億7200万ドルに落ち込んだ。主な原因はWiiの売り上げが43%も減ったこと。同社の岩田聡社長も投資家に「Wiiは失速している」と説明せざるを得なかった。

 だが、岩田には自社のゲームの開発以上に心配すべきことがある。最大のライバル、マイクロソフトとソニーは来年、独自のモーション検知コントローラーを備えたゲーム機を発売する準備を進めている。とくにマイクロソフトにとってはWiiを倒す絶好のチャンスだ。

 今年6月に計画が発表されたマイクロソフトの新製品『ナタル』からはコントローラーが完全に姿を消した。その代わり、カメラと赤外線センサーを使ってプレーヤーの動きを判別する装置をテレビの下に設置する。これで実際のプレーヤーのシルエットがそのまま画面に現れる。

 5月に試作版を体験してみたが、あれほど革新的に思えたWiiのコントローラーが原始的に思えるほどだった。Wiiのテニスゲームで勝つには基本的には手首を前後に動かすだけでいい。だがナタルのカメラは手足の微妙な動きも見逃さない。

500億ドル産業を制するのは?

「リコシェット」というゲームも試してみた。ボールにパンチやキック、ヘッディングしてレンガを壊すゲームだ。シンプルに聞こえるかもしれないが、疾走するボールを追う手足の動きが完全に検知されるため、すべての攻撃を正確に決める必要がある。

 マイクロソフトはシームレスに楽しめるシンプルな製品の企業、では決してなかった(Xboxは例外だ)。だが試作品が抱かせた期待に応える完成品ができれば、ナタルはゲーム市場において巨大な足跡を残すことになるだろう。

 ソニーもモーション検知コントローラーを開発中だ。カメラと連動する棒状のもので、Wiiとナタルの中間タイプ。まだ名前はないが、ナタルより早い来春の発売が予定されている。マイクロソフトより先に市場に打って出ることで、プレステ3はゲーム機シェア争いの3番手を抜け出すことが可能になる。

 ソニーもマイクロソフトも心底大ヒットを求めている。ゲーム業界も結局は不況と無縁でなく、両社とも今年の夏、売り上げを伸ばすため現行機の価格を100ドル引き下げた。任天堂はすでに、Wiiフィットなどのソフトでファミリー層や年配者の支持も得ている。簡単で直感的なモーション検知コントローラーがさらに広がれば、ゲーム市場を若者から幅広い年齢層に決定的に広げることができる。

 新しいゲーム機とその特長を生かしたソフトが発売されるまで、この成長する500億ドル産業を制するのが誰かは分からない。だがマイクロソフトとソニーがより大きなシェアを獲得すると見るのが妥当だろう。

 任天堂にとっては大ピンチだ。ほかの2社と違い、任天堂の製品や収益源の幅は狭い。マイクロソフトにはウィンドウズがあり、ソニーには映画スタジオ(と多くの製品)がある。だが任天堂はテレビゲーム会社でしかない。業界最大の存在でいたければ、うかうかしているヒマはない。

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