最新記事

金融

リーマン破綻1年後、本当の敗者

リーマンの元幹部社員がウォール街に返り咲く一方、事務系スタッフの多くは今も失業中

2009年9月15日(火)17時14分
ナンシー・クック

クビになった日 経営破綻の前日に私物を運び出すリーマン・ブラザーズの社員(08年9月14日)。その後の運命ははっきり明暗が分かれた Chip East-Reuters

 昨年9月15日、米証券大手のリーマン・ブラザーズが経営破綻すると、その余波はドミノ倒しのように世界中の金融市場を襲った。158年の歴史をもつリーマン・ブラザーズの崩壊は、従業員2万5000人の職を奪い、ウォール街の風景を一変させた。

 それを考えれば、リーマンの幹部やマネジャーたちがその後、ウォール街でつまはじきにされるのも当然だろう。ところが実際には、リチャード・ファルドCEO(最高経営責任者)など一部のトップ経営陣を除けば、多くのトレーダーたちがドイツ銀行やJPモルガン・チェース、バークレイズなどの同業他社で似たようなポジションに返り咲いている。

 リーマン・ショック1周年に「大した意味はない」と、金融史の専門家であるチャールズ・ガイストは言う。「人員の配置転換に過ぎなかった」

 1年後の今、リーマン破綻の本当の犠牲者は、秘書やオペレーションスタッフなどの事務系スタッフだったことがわかる。

 彼らの多くは今も職がない。バークレイズと野村ホールディングスがリーマン・ブラザーズの一部部門を買収した際に約1万2500人の元リーマン社員を引き継いだが、彼らはそのリストにも入れなかった。

オークションサイトで日銭を稼ぐ元秘書

「25年間働いた末、退職基金が他人の判断ひとつで紙くずになるなんて最悪の事態だ」と、リーマンでバックオフィス部門を統括していたデービッド・アムビンダーは言う。

 かつてリーマンで幹部社員の秘書をしていたステイシー・リン・コベルは、今も失業中の身だ。リーマンで6年間働き、7万5000ドルの年収を得ていた彼女は、ニューヨークのアッパーイーストサイドに暮らす典型的な独身プロフェッショナルだった。

 元同僚の多くと同じく、彼女の解雇手当は底をつき、クレジットカードも限度額いっぱいまで使い切った。最近はディスカウントショップで買った化粧品をオークションサイトeベイで売り出して、わずかな利益を得ている。

「最大の打撃を受けたのは、最も下の地位にいた私たちのようなサポートスタッフだ」と、彼女は言う。リーマンの上司のために長年、会合をセッティングし、アジア出張の手配をしてきた彼女は、当時のコネが職探しの役に立つと期待していた。だがリーマン時代の「誰も力になってくれず、怒りを感じている」と言う。

 一方、リーマンのベテラン社員だったアムビンダーは、自らの手で運命を切り開く決意をした。長年、銀行の合併を目の当たりにしてきた彼は、オペレーション部門で似たようなポジションに就く難しさを知っていた。

 職探しに何カ月も費やす代わりに、アムビンダーは昨年11月、出張サービス「ミスター・ハンディマン」のフランチャイズ権を購入。自宅のリフォームに関する電話相談に応対する5人の従業員を統括している。「ウォール街に未練はないが、(ウォール街での)報酬に未練のない人はいない」と、アムビンダーは言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

インド4─6月期GDP、7.8%増 米関税の影響に

ワールド

安全保障巡り「首脳レベルの協議望む」=ウクライナ大

ワールド

ロ軍、ウクライナへの進軍加速 1カ月最大700平方

ワールド

カナダGDP、第2四半期は1.6%減 米関税措置で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界がうらやむ国」ノルウェーがハマった落とし穴
  • 4
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 5
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    自らの力で「筋肉の扉」を開くために――「なかやまき…
  • 9
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 10
    「人類初のパンデミック」の謎がついに解明...1500年…
  • 1
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 2
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 3
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 4
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 5
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 6
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 7
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 8
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 9
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 10
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中