最新記事

米経済

オバマ効果はハワイを救えるか

大統領は故郷に莫大な宣伝効果をもたらすが、マイナスの影響も

2009年9月11日(金)14時57分
ダニエル・グロス(ビジネス担当)

 大統領の故郷というのは、一時的な好景気を経験することが多い。

 ビル・クリントンの故郷アーカンソー州リトルロックのホテルは、ケネス・スター特別検察官らがクリントンのホワイトウォーター疑惑の調査で訪れた時期に潤った。テキサス州クローフォードのレストランや土産物店は、大統領選の頃にジョージ・W・ブッシュの牧場に押し寄せたデモ隊やファンのおかげで、つかの間の好況を味わった。

 7月、私はバラク・オバマ大統領が生まれ育ったハワイの経済も「オバマ効果」を享受しているか調査に乗り出した。その結果は驚いたことに、「将来的な恩恵は約束されているが、現在の厳しい経済情勢を打開することはできていない」というものだった。

 ハワイは観光産業が経済活動の半分を占めている。09年前半にハワイを訪れた観光客は前年より10%近く減り、土産物の売り上げも15・1%落ち込んだ。5月のホテル稼働率は、宿泊料金を安くしたのに62%と冴えなかった。

 なぜか。ホノルルにとって最大の「得意先」といえばアメリカ西海岸・東海岸だが、今は両地域とも不況にあえいでいる。3番目に大きい顧客は日本だが、景気後退と新型インフルエンザの影響で、6月の日本からの観光客は前年に比べて3分の1近く減少した。ハワイの6月の失業率は7%を上回っている。

企業の会議が減った訳

 ハワイとオバマの関係をネタに儲けようと狙ったビジネスも、大した成果を挙げていない。

 ガイズ・オブ・オアフ社を経営するミッチ・バーガーは、オバマニア向けのツアーを企画。40ドルでプナホウ・スクール(オバマが通った私立校)や、オバマの祖母が住んでいたベレタニア通りの建物などを見て回れる。だがバーガーによれば、ツアー申込者はそれほど多くない。多くの旅行会社が、こうした観光スポットを既存のツアーに組み込んでいるからだ。

 一方で、直接的な公式の支援を受けて潤った者もいる。ホワイトハウスは6月25日、議員たちを招いて開催した毎年恒例のピクニック行事で、ハワイ式の晩餐会を催した。カウアイ島のダンスチームが招かれ、ホノルルのカリスマシェフ、アラン・ウォン率いる料理人たちがホワイトハウスの料理スタッフと協力して2200人分のハワイ料理を振る舞った。

 ホノルルにあるウォンのレストランは、7月初旬の平日の夜も満席。ハワイの中でもオバマと最もゆかりの深いオアフ島は、ほかの島に比べてホテル稼働率の落ち込み幅が最も小さい。もっとも、これらは「オバマ効果」の状況証拠にすぎない。

 ウォンをはじめとする地元の実業家たちは、オバマがハワイを訪れるだけで同地の宣伝になり、そこから利益を得られると確信している。ハワイ観光局(HVCB)の上級副局長ジェイ・タルワーによれば、ホワイトハウスでのハワイ式晩餐会の報道は、7億回以上も人の目に触れたという。HVCBの年間予算を全額使ってもそれほどのPRはできないだろう。

 とはいえ、オバマ効果にはマイナスの側面もある。オバマは2月、政府の支援を受ける金融機関が、高級ゴルフクラブやスパでの静養を続けていることを厳しく非難した。「納税者のカネでラスベガス旅行をしたり、スーパーボウルを観戦することは許されない」

 この発言は逆効果をもたらした可能性がある。グランドハイアット・カウアイホテルでは、売り上げの30%を占める企業の会議が今年に入って激減。5月に会議や旅行のためにハワイを訪れた人の数は、前年比で38・4%落ち込んだ。

 ハワイのホテル経営者にとって救いなのは、まだパーティーを開く余裕がありそうな産業が1つ残っていること。それは医療産業だ。私が現地を訪れた週、シェラトン・ワイキキでは全米生薬学会が会議を開き、グランドハイアット・カウアイでは一般診察に関するシンポジウムが開催されていた。

 シンポジウムの議事日程には、オバマの医療保険制度改革への対応策をめぐる議論が存分に盛り込まれていたことだろう。

[2009年8月12日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

維新、連立視野に自民と政策協議へ まとまれば高市氏

ワールド

ゼレンスキー氏、オデーサの新市長任命 前市長は国籍

ワールド

ミャンマー総選挙、全国一律実施は困難=軍政トップ

ビジネス

ispace、公募新株式の発行価格468円
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 2
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道されない、被害の状況と実態
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 5
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 6
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 7
    【クイズ】アメリカで最も「死亡者」が多く、「給与…
  • 8
    「中国に待ち伏せされた!」レアアース規制にトラン…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 7
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 10
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中