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ジョブズ抜きのアップルに用はない

カリスマCEOの病気療養中もアップルの業績は絶好調
それでもアップルのリーダーはジョブズ以外にありえない

2009年6月24日(水)17時07分
ダニエル・ライオンズ(テクノロジー担当)

病で痩せても ジョブズのビジョンがアップルの原動力だ(08年9月、iPodナノの発表会で) Robert Galbraith-Reuters

 今日、アップルの直営店に1時間並んで、必要もない商品を買ってしまった。6月19日に発売されsたiPhoneの最新モデル「3GS」だ。値段は299ドル。

 実は、昨年発売されたiPhoneをすでに持っているし、ニューズウィークから支給されたブラックベリーにノキアの携帯電話、レンタルしているパームのPDA(携帯情報端末)もある。

 それなのになぜ、並んでまで新しいiPhoneを買ったのか。動作のスピードやカメラのクオリティーが向上し、メモリー容量が増えたことは確か。

 でも本当の理由は、アップル社の新製品はどんなものでも買う価値があると信じているから。新製品が出るたびに欲しくてたまらなくなるから、だ。

 アップルと(私のような)アップル信者は契約を交わしたようなもの。アップルは猛スピードで製品の改良を続け、過去の製品は自ら葬る。その代わりに私たち信者は、アップルが作るものなら何でも買う――。

 そんななか、スティーブ・ジョブズCEO(最高経営責任者)がいないほうがアップルにとっていいのではないか。そんな声も上っている。この半年ほど病気療養し肝臓移植を受けたジョブズだが、復帰の準備を進めているところだ。

 ところが6月24日付のウォールストリート・ジャーナル紙は、「偉大なる指導者」の不在中にティム・クックCOO(最高執行責任者)が素晴らしい働きをしたと絶賛する記事を掲載した。

 ある金融アナリストは、クックを失うことはジョブズを失うよりも衝撃が大きいと言う。確かにジョブズの不在中にアップルの株価は60%上昇し、「3GS」の売り上げは発売後数日で100万台を突破した。

マニアを熱狂させる壮大なビジョン

 では、ジョブズを必要としているのは誰なのか。ジョブズは気難しいことで有名だ。ニューヨーク・タイムズ紙が指摘するように、自分の健康問題を含めてありとあらゆることを秘密にするという奇妙な社風を作り上げた。同紙コラムニストのジョー・ノセラは、本人と取締陣がジョブズの健康問題を明らかにしないのなら、「職務怠慢」で辞任すべきだとまで主張する。

 ジョブズが腹立たしい人物であることは認めよう。ほとんどの人はジョブズと同じ職場で働きたいと思わないし、近所に住むのも商売するのも嫌だろう。(アップル創業者として)ちやほやされてきたジョブズは、傲慢でひどく短気だ。

 だが彼は、飛びぬけて優れたビジョンを持っている。「3GS」を買うための長い行列を見るといい。iPhone人気はクックやマーケティング担当のフィル・シラー上級副社長のおかげではない。販売の責任者であるロン・ジョンソン上級副社長や、優れたデザインを生み出すジョナサン・アイブのおかげでもない。

 人々が行列を作ってアップルの商品を欲しがるのは、ジョブズのおかげ。壮大なビジョンを持つジョブズこそが、マニアを熱狂させているのだ。

 クックは優れた経営者であり、サプライチェーンを巧みに管理して、ビジネスを滞りなく進める手腕に長けている。アップルにとって重要な人物であり、ジョブズにもクックの仕事はできない。だが、クックにもジョブズの仕事はできない。つまりアップルには、2人とも必要なのだ。

 どんなに短気でも、リーダーはジョブズであってクックではないことは明白だ。最新の映画『スタートレック』を見た人なら、2人の関係を理解しやすいかもしれない。クックは知性に訴える論理的なスプーク。一方のジョブズはカーク船長。短期で衝動的だが、彼が船長であることに異論のある人はいないだろう。

 それにジョブズを必要としているのはアップルだけでない。めまぐるしい技術革新に圧倒されがちな時代に、最新技術をシンプルで便利な形で提供してくれる人物を世界は必要としている。

「もっといいもの」のあくなき追求

 だから私は今日、1時間並んで新しい携帯を手に入れた。真新しいiPhoneを手に入れると、店も出ないうちに「モバイルミー」(アップルのクラウドコンピューティング・サービスで、パソコンや携帯など多様な端末の情報を一元管理できる)のアカウント情報を入力した。

 するとたちまち過去の電子メールやアドレス帳やスケジュールが新しい携帯に読み込まれた。魔法のようにほんの数秒で、私仕様の携帯が完成した。

 上機嫌でオフィスに戻った私は、パソコンでこの記事を書き始めた。使っているのは、マイクロソフトが年内に発売を予定している最新のOS(基本ソフト)「ウィンドウズ7」のベータ版だ。

 ところが1段落書いたところで、突然パソコンがクラッシュした。仕方なく再起動して同じ段落を書き直すと、今度は突然フリーズして、うんともすんとも言わなくなってしまった。

 この時点で私はあきらめ、アップルのマックブックプロでこの記事を書き上げた。マックブックプロは値段は高いが頑丈で、私の記憶するかぎり1度もクラッシュしたことがない。

 優れたOSとそうでないOSがどう違うのかは分からない。ただ私に分かるのは、優れたOSを作るには「もっといいものを作れ」と技術者に言い続けるリーダーが必要だということだ。

 だからこそアップルは、そして私たちは、スティーブ・ジョブズが必要なのだ。

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