最新記事

中国経済

内需好調は消費大国へ脱皮の兆し?

輸出不振でも好況なのは政府支出のなせる業。消費者は永遠の非常時モードのまま

2009年6月18日(木)18時17分
ラーナ・フォルーハー(ビジネス担当)

インフラ投資は当たり前、解雇防止や給与補填も(上海の建設現場) Aly Song-Reuters

 昨今の世界経済をめぐるいちばんホットな話題といえば、今後のアメリカ経済の行方ではなく中国経済の運命だ。中国は09年世界経済危機の最大の犠牲者となるのか、それとも最もうまく切り抜けた国となるのか。

 今のところ、あらゆるニュースが中国の明るい未来を指し示している。先日、中国国家統計局が発表した統計を見ても、アメリカの景気後退が中国大不況の引き金を引くとの当初の見込みは誤っていたようだ。

 長年、対米輸出に依存していた中国経済だが、輸出の落ち込み(5月は前年同月比でマイナス26・4%)にもかかわらず堅調な成長を遂げている。理由は国内における需要の伸びだ。小売売上高は5月、前年同月比で15・2%増加した。住宅や自動車の売り上げも好調だ。

 これを中国が新たな発展段階に到達した証拠だとみる人もいる。つまり世界トップの消費大国の座をアメリカと争えるほど豊かな消費社会が出現しつつあるのだと。たしかに、ある意味すでに中国はアメリカに肩を並べる消費大国になっている。

 問題は、好況を牽引している消費の主役が個人ではなく政府だということだ。

予算にケチをつける野党もなし

 中国経済の回復は本物だが、それは国家予算によって購われたもの。今の世界で中国共産党ほどカネを潤沢に使える政党はない。財政的に余裕があるし、予算に対して野党などから批判を受けることもないからだ。中国の景気対策の規模はGDP(国内総生産)の4%に相当する(アメリカは2%)。

 これまでも、中国経済のなかで政府投資の占める割合は非常に高かったが、今年に入ってさらに30%も増加。そのうち75%がインフラ整備に振り向けられている。鉄道と道路の建設費はこの1年で2倍以上に増加。新しい会議場やスポーツ施設といった箱ものが各地で次々と建てられている。

 中央や地方の政府は補助金を増やし、不況で製造ラインの止まった工場を支援したり、労働者の解雇を防止したり、減った給与を補填しようとしている。銀行に対し貸し出しを増やすよう行政指導が行なわれたことや、政府からの融資のおかげもあって、マンション販売は急増している。

 農村部では国が自動車や家電製品(たいていが国産だ)を購入するための商品券を配布。ある中国の国営銀行幹部は5月、私にこう語った。「どれも政府が景気を支えようとやっていることだ」

 だが、補助金なしでも個人が財布の紐を緩めてくれない限り――つまり政府が基本的な医療と年金を幅広い層の国民に保障しない限り、この国で本物の消費ブームは起きない。

 中国で病気をしたら、診察を受ける前にまず医療費を即金で払わなければならない。同様に、退職後に何らかの年金をもらえる国民の数は全体の20%に過ぎない。

 個人の貯蓄率が30%と高いのも、個人消費が経済に占める割合が近年減少しつつあるのも、こうした事情のためだ。中国ではアメリカ以上に、万一への備えが必要なのだ。

(6月24日発売号に関連記事を掲載する予定です)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

原油先物が小幅安、市場は対ロ制裁や関税を引き続き注

ワールド

米、メキシコ産トマトの大半に約17%関税 合意離脱

ワールド

米、輸入ドローン・ポリシリコン巡る安保調査開始=商

ワールド

事故調査まだ終わらずとエアインディアCEO、報告書
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機」に襲撃されたキーウ、大爆発の瞬間を捉えた「衝撃映像」
  • 2
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中にまさかの居眠り...その姿がばっちり撮られた大物セレブとは?
  • 3
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別「年収ランキング」を発表
  • 4
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 7
    【クイズ】次のうち、生物学的に「本当に存在する」…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 10
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 9
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中