最新記事

アメリカ経済

ウォール街が狙うデリバティブ復権

2009年5月20日(水)14時55分
マイケル・ハーシュ(ワシントン支局)

政府も旧金融秩序の味方

 オバマ政権やFRB(連邦準備理事会)、多くの議員も支持している危機再発防止策は、「システミックリスク監督当局」の新設だ。だが、世界中で外からは見えにくい店頭取引が復活したとき、現場の取引のすさまじい勢いと複雑さについていけるのだろうか。そんなことが可能だと考えるのは、経験を無視した希望的観測というものだろう。

 一方、ニューヨーク連邦準備銀行はウォール街の幹部や既存の規制当局者と会合を重ねている。4月1日には、取引の追跡がはるかに容易になる取引情報の「倉庫」と中央清算機関をつくることで合意した。だが彼らも、全取引を公開の取引所で行わせるといった抜本的な改革には抵抗している。

 ウォール街の幹部たちは、取引所と清算機関の間に違いはほとんどないと主張する。どちらも規制されていて、業界が運営する。

 いや違いは大ありだと、オバマ政権の改革案に批判的な米商品先物取引委員会(CFTC)の元高官マイケル・グリーンバーガーは言う。取引所での取引では不正や市場操作を取り締まる権限が政府にあり、必要なら取引を停止させることもできる。公開された取引所には、非公開で運営される清算機関にはない取引の透明性もある。

 民主党の上院議員たちは2月上旬にオバマに面会を申し込んだが、なかなか実現しなかった。面会が実現したのは、オバマがCFTCの委員長に指名したゲーリー・ゲンスラー元財務次官の承認にサンダース上院議員が待ったを掛けた後だ。サンダースは、ゲンスラーは財務省でウォール街の利益のために働いた期間が長い人物だと語った。「歴史的なこの時期、金融市場には新しい文化をつくり出せる独立した指導者が必要だ」と、彼は言う。

 だが、実際に猛烈な勢いで復活しつつあるのは、古い文化のほうだ。そのすべてが、金融危機とその原因について誰より予知能力を発揮した専門家たちの助言に逆行している。現在、金融規制をめぐる議論を主導しているのはウォール街のインサイダーたち。それとは対照的にアウトサイダーの立場にあるのがこうした専門家たちだ。

 元トレーダーでニューヨーク大学教授(リスク工学)のナシーム・ニコラス・タレブもその1人。市場でまれに起こる大変動のメカニズムを解説した『ブラックスワン(黒い白鳥=予期せぬ出来事)』の著書もある彼は最近、英紙フィナンシャル・タイムズで根本的な改革の必要性を説いた。

 タレブによれば、金融機関が大きくなり過ぎてまたつぶせなくなることを阻止するだけでなく、複雑なデリバティブも禁じなければならない。「なぜなら、それは誰にも理解できないし、理解できていないことを自覚する者さえほとんどいないからだ」

 今まさにその後始末に追われているというのに、また同じ世界をつくろうというのだろうか。

[2009年4月22日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日経平均は大幅続落、一時5万円割れ 過熱感で調整深

ビジネス

日鉄、純損益を600億円の赤字に下方修正 米市場不

ビジネス

ユニクロ、10月国内既存店売上高は前年比25.1%

ワールド

中国、対米関税を一部停止へ 米国産大豆は依然割高
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に「非常識すぎる」要求...CAが取った行動が話題に
  • 4
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 5
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 10
    高市首相に注がれる冷たい視線...昔ながらのタカ派で…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中