最新記事

欧州経済

単一通貨ユーロが崩壊?

2009年4月7日(火)15時11分
ホルガー・シュミーディング(バンク・オブ・アメリカ欧州担当主任エコノミスト)

危機に結束する欧州首脳

 もっとも、市場があらゆるリスクを回避しようとしているなか、ドイツのようないわゆる経済大国と、アイスランドやスペインのような経済力が弱いとされる国々との違いは際立ってきている。後者が世界の金融市場で資金調達する場合のコストは、ドイツよりもはるかに高い。

 そのため経済力の弱い一部の国々がユーロを脱退するのではないかとの憶測も流れている。ジンバブエのように政府に必要な資金を自国通貨発行でまかなおうとするのではないか、というわけだ。

 だがその結果としてジンバブエはハイパーインフレと経済破綻に見舞われており、これが効果的な手法でないのは明らかだ。独自通貨の為替レートが下落するリスクもあるだろう。そうなれば政府の借り入れコストはもっと高くなる。

 ドイツなどの経済大国がユーロを見放すのではとの見方もほとんど意味がない。今のような不景気のなかでドイツが再びマルクを導入すれば、外為市場でマルク買いが進むかもしれない。マルク高になれば輸出国ドイツの成長見通しはさらに悪化することになる。

 政治的な論理からも単一通貨の廃止はありえない。加盟各国は政治的な意味でも、ユーロに多大な「資本」を投じてきた。

 ヨーロッパ各国の首脳はほぼ月に1回のペースで集まり、さまざまな議題で話し合いをもっている。ある国が財政危機に陥り、緊急援助を要請するといった事態が起きれば、それを断るのは困難だ。別の議題でその国の賛成票が必要になる可能性があるからだ。

ユーロの価値は高まる

 ユーロ圏に果たして複数の加盟国を同時に救済できるだけの資金があるのかという疑問も聞かれる。だが加盟国は、さまざまな方法で互いに助け合える。

 たとえば欧州諸国と関係の深いなんらかの機関が、財政危機に陥った国の新規発行国債を一時的に保証することも可能だ。多くの国で実施している銀行債権の政府保証と似た方法だが、危機を乗り切るための時間かせぎができる。

 つまり世界の投資家たちには、ユーロ圏崩壊よりももっと心配すべき問題があるということだ。中期的には、金融危機はユーロの価値を高める可能性さえある。

 ポーランドやハンガリーなど、EU(欧州連合)加盟国でありながらユーロに参加していない国々は自国通貨の下落に苦しんでいる。これらの国々は、ユーロという傘の下に入ろうと必死だ。

 とはいえ、こうした国々が「ヨーロッパで最も排他的なクラブ」であるユーロへの参加要件を満たすには、さらなる努力が必要だ。そして条件が整ったあかつきには、新規加盟国のおかげでユーロはさらに強くなるだろう。 

[2009年3月25日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

タイCPI、2カ月連続マイナス 通年見通し下方修正

ワールド

インド中銀が予想外の大幅利下げ、景気支援へ 預金準

ビジネス

オアシス、トヨタ・豊田織機の株保有 買付価格引き上

ビジネス

ドイツ輸出・鉱工業生産、4月は予想以上に減 米国か
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:韓国新大統領
特集:韓国新大統領
2025年6月10日号(6/ 3発売)

出直し大統領選を制する李在明。「政策なきポピュリスト」の多難な前途

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    日本の女子を追い込む、自分は「太り過ぎ」という歪んだ認知
  • 3
    猫に育てられたピットブルが「完全に猫化」...ネット騒然の「食パン座り」
  • 4
    壁に「巨大な穴」が...ペットカメラが記録した「犯行…
  • 5
    プールサイドで食事中の女性の背後...忍び寄る「恐ろ…
  • 6
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
  • 7
    脳内スイッチを入れる「ドーパミン習慣」とは?...「…
  • 8
    女性が愛馬に「後輩ペット」を紹介...亀を見た馬の「…
  • 9
    韓国新大統領にイ・ジェミョンが就任 初日の執務室で…
  • 10
    ウーバーは絶体絶命か...テスラの自動運転「ロボタク…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシストの特徴...その見分け方とは?
  • 4
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 5
    ペットの居場所に服を置いたら「黄色い点々」がびっ…
  • 6
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
  • 7
    日本の女子を追い込む、自分は「太り過ぎ」という歪…
  • 8
    ウクライナが「真珠湾攻撃」決行!ロシア国内に運び…
  • 9
    猫に育てられたピットブルが「完全に猫化」...ネット…
  • 10
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 7
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 8
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 9
    ペットの居場所に服を置いたら「黄色い点々」がびっ…
  • 10
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中