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アメリカから資本家が消えた

銀行がリスクを取り過ぎて作った不良資産の売却を進めるには自らのリスクで一儲けしようという投資家の存在が不可欠だ

2009年4月21日(火)16時30分
ダニエル・グロス(ビジネス担当)

ガイトナーは「問題はリスクをとらなさすぎることだ」と言った。 Jonathan Ernst-Reuters

 米政府が3月23日に発表した大手金融機関の不良資産買い取りプランをどう見るか。私が尊敬する経済学者2人の見方は大きく分かれている。プリンストン大学のポール・クルーグマン教授は大反対だが、カリフォルニア大学バークレー校のブラッド・デロング教授はもっと楽観的だ。

 一方、株式市場は今のところ全面的に賛成しているが、明日または来月には態度を一変させる可能性が十分にある。発表直後は援軍が来たと大喜びするが、やがて武器は紙鉄砲しかないことがわかって失望する――過去半年間、米政府の公的支援策に対する反応はずっとこのパターンだった。

 この大混乱の収拾に四苦八苦する財務省には同情すべき点がある。ティモシー・ガイトナー財務長官はこう言った。「わが国の多くの銀行がリスクをとりすぎた。だが現在の経済全体に対するリスクは、リスクをとらなさすぎることだ」

 では、本来リスクをとるのは誰で、誰が見返りを得る立場にいるのか。財務省の計画では、銀行の不良資産を買い取る民間投資家は実質的な政府の資金援助を受けられる仕組みになっている。

 財務省は銀行が評価額100ドルのローンを84ドルで売る例をあげて説明している。この場合、民間投資家と政府がそれぞれ6ドルずつ拠出すれば、残りの72ドルは政府が投資家に貸し付ける。つまり、投資家は買い取り額の約7%を出資するだけで、利益の相当部分を手にすることができる。

ハゲタカ投資家の好機

 この計画を見ると、気になる疑問が浮かんでくる。「資本家」はどこへ消えたのか。自己資金を賭ける意志のある人々、利益のために自分の金を誰かに貸そうとする人々はいないのか。

 財務省の不良資産処理策は、政府が損失を補填したり資金を貸し付けたり、余分な利益を与えないかぎり、ウォール街で最も勇敢な投資家も投資や借金を一切しないという前提に立っている。要するに、偉大なビジネスマンがビジネスを怖がっていると見ているのだ。

 長期的ビジョンと勇気のある投資家にとって、市場の混乱はチャンスだ。89年、貯蓄貸付組合(S&L)の破綻処理を目的に設立された整理信託公社(RTC)から資産を買い取った人々は莫大な富を築いた。

 90年代初期にいわゆるジャンク債市場が崩壊した後も、新興投資家たちがジャンク債を買い取って企業の経営権を握り、十分な利益をあげた。2000年代になってからも、ウォーレン・バフェットのような投資家が経営状態の悪化した通信会社やエネルギー関連企業に手を伸ばした。

 現在の状況は「ハゲタカ投資家」にとって絶好のチャンスのはずだ。ニューヨークタイムズ紙によれば、いくつかの有名企業は再建途上にある企業の社債買いに走っているという。こうした企業は潤沢な資金が手元にある。(限定的だが)借金もできる。それでも安全が保証されないかぎり、不良資産の買い取りには手を出そうとしない。

 確かに今の住宅ローン関連市場は正常に機能していない。しかし、市場が混乱するのはごく普通のことだ。必ずどこかに強気市場があるように、マクロ経済や地政学的な問題、業界固有の問題が原因で何かがひどく過小評価される市場も必ずある。

不良資産は安くても敬遠

 もっとも、銀行から不良資産を買おうとしない資本家の行動には、それなりの合理性があるという見方もできる。たとえば今は潜在的な買い手が怖気づいているのかもしれない。不良資産の価格が買い手にとってうまみのあるレベルまで下がっていない可能性もある。

 それともエコノミストのマーク・トーマが言うように、複雑な買い取りの手法と市場の混乱が投資家を遠ざけ、どんな値段でも不良資産には投資したくないという気分にさせているのだろうか。

 あるいはウォール街自体が怖気づいている可能性もある。過去10年、金融サービス業界では「リスクなき富」を手に入れられるという見方が支配的だった。今は「資本家なき資本主義」を受け入れる世の中になったようだ。

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