最新記事

風評被害はなぜ起きたのか

3.11 日本の試練

日本を襲った未曾有の大災害を
本誌はどう報じたのか

2011.06.09

ニューストピックス

風評被害はなぜ起きたのか

各国に広がる過剰反応の原因は、日本政府のお粗末な情報提供にもある

2011年6月9日(木)09時50分
藤田岳人(本誌記者)、横田孝(本誌編集長/国際版東京特派員)

 福島第一原子力発電所での事故発生から1カ月余りがたったが、「出口」はまったく見えない。それどころか放射能汚染の風評被害が世界に広まり続け、欧州やアジア諸国で日本産の農産物や海産物に対する放射能検査の強化や輸入制限が実施されている。

 警戒対象になっているのは食品だけではない。ヨーロッパ最大規模のオランダ・ロッテルダム港は、事故後に日本を出航した全船舶に対して放射能検査を実施すると発表。第2の規模を持つドイツ・ハンブルク港も貨物の検査・隔離について協議している。

 過剰とも言える反応もある。先月末には中国のアモイ港で日本の貨物船が「異常な放射線量」を理由に入港を拒否された。この船は福島第一原発付近の海域を航行していたが、検出された1時間当たりの放射線量は最大でもわずか3・5マイクロシーベルトでしかなかった。日本から輸入されるすべての消費財に放射能検査を行うと発表したサウジアラビアのような国もある。

 さらに、福島第一原発事故には国際機関による介入が必要だという声まで噴出している。欧州復興開発銀行のジャック・アタリ元総裁は「日本の官民当局のプライドと傲慢さ、透明性の欠如と秘密主義が、国内外の目から被害の実態を隠蔽させることにつながった」と主張。外国が、日本の官僚機構などに対して持っているステレオタイプ的な言説の上に成り立った指摘だ。

 残念ながら、風評被害が拡大している理由はこんな単純なものではない。政府や東京電力の透明性に大きな問題があったわけでもない。

データの開示では不十分

 むしろ、原因は政府や東電が「情報発信」という概念を十分に理解していなかったことにある。状況を正確に把握できず不安に怯える自国民や外国に対し、日本政府は有効な情報発信ができていなかった。

 そもそも「情報」とは何か。「データ」に「文脈」が加えられて初めて情報になる。つまりデータが持つ意味を受け手側がどう感じ、行動し得るかまでを考えて提供するのが情報公開のあるべき姿だ。それはパニックを避けるために都合の悪いデータを隠す、ということとは違う。

 今回のような非常事態の場合はなおさらだ。政府や東電が発表を行う際も、データを精査・整理し、「文脈」をつけた上で受け手側に対して分かりやすく説明する作業が必要だった。

 しかし、政府や東電はこうした作業を怠ったまま慌しく記者会見を開き、「データ」だけを世間に垂れ流し続けた。透明性はある程度担保されたかもしれないが、情報公開としてはあまりに稚拙なやり方だ。

 その最たる例が、先月東京都の水道水で基準値を上回る放射性物質が検出されたケースだ。都内の浄水場から国の基準の2倍を超える放射性物質が検出された際、都は「大人は飲んでも大丈夫」と説明したにもかかわらず、「1歳未満の乳児の摂取制限指標を上回る」という部分だけが強調されて伝わってしまった。結果、各地でミネラルウオーターが買い占められる事態を招いた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ2都市にロシアが攻撃、和平協議直後

ビジネス

乳児ボツリヌス症の集団感染、バイハート社の粉ミルク

ワールド

北朝鮮抑止「韓国が主な責任」、米国防総省が関与縮小

ワールド

トランプ政権のEVインフラ助成金停止は違法、米地裁
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:「外国人問題」徹底研究
特集:「外国人問題」徹底研究
2026年1月27日号(1/20発売)

日本の「外国人問題」は事実か錯誤か? 7つの争点を国際比較で大激論

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 2
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味を帯びる「超高齢化」による「中国社会崩壊」
  • 3
    麻薬中毒が「アメリカ文化」...グリーンランド人が投稿したアメリカを嘲笑する動画にネット爆笑
  • 4
    40代からは「積立の考え方」を変えるべき理由──資産…
  • 5
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 6
    サーモンとマグロは要注意...輸入魚に潜む「永遠の化…
  • 7
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 8
    「これは違法レベル...」飛行機で「史上最悪のマナー…
  • 9
    トランプを支配する「サムライ・ニッポン」的価値観…
  • 10
    3年以内に日本からインドカレー店が消えるかも...日…
  • 1
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 2
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 3
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味を帯びる「超高齢化」による「中国社会崩壊」
  • 4
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 5
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 6
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 7
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 8
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の…
  • 9
    韓国が「モンスター」ミサイルを実戦配備 北朝鮮の…
  • 10
    40代からは「積立の考え方」を変えるべき理由──資産…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 4
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中