最新記事

フェースブックを作った男

フェースブック
過去か未来か

打倒グーグルの最有力候補は
会員5億人の「お友達帝国」

2010.10.27

ニューストピックス

フェースブックを作った男

世界最大のSNS誕生と傷だらけの創業者を描いた映画『ソーシャル・ネットワーク』が明かす現代の孤独

2010年10月27日(水)15時45分
ジェレミー・マッカーター

 マーク・ザッカーバーグがハーバード大学にやって来る50年前。「ブック」といえばまだ紙の本と決まっていた時代に、劇作家のソーントン・ワイルダーがこの大学のキャンパスで連続講演を行った。

 ある回の講演のテーマは「自立に伴う孤独と自由に伴う不安」。難しいテーマだが、聴衆がすべてアメリカ人だと聞いてワイルダーは安心した。「会場の全員がそのような経験をしている」と見なせたからだ。

「アメリカ人の孤独」とワイルダーが呼んだ現象は、講演が行われた1952年よりずっと前から猛威を振るっていた。最近のアメリカ社会を見ると、インターネットで通話できるスカイプやグーグルチャットが登場しても状況は変わっていないらしい。その最も新しく、最も際立った証拠がデービッド・フィンチャー監督の映画『ソーシャル・ネットワーク』だ(10月1日全米公開。日本では10月23日に東京国際映画祭でオープニング上映、11年1月全国公開)。

 この映画は、スキャンダラスな内容をめぐって公開前から大きな話題を呼んできた。原作は、世界最大のソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)である「フェースブック」の創業期をテーマにしたベン・メズリックの『facebook』(邦訳・青志社)。セックスとドラッグの日々のなか、ハーバード大学の学生寮でフェースブックが誕生した過程を描いている。

 最も注目される謎は、フェースブック創業者のマーク・ザッカーバーグがキャメロンとタイラーの双子のウィンクルボス兄弟らからアイデアを盗んだのかどうかだ。この点に関して映画は結論を出しておらず、判断は観客に委ねられている。

 暴露話的な側面にとかく目が行きがちだが、ひと皮めくるとこの映画の底流には驚くべきテーマがある。学生寮でのぎこちない会話、裁判沙汰、報復──この作品が描くこうした要素はすべて、ワイルダーが指摘した孤独と不安の今日風な表現に見える。

『ソーシャル・ネットワーク』は、よくあるキャンパス映画とはひと味違う。ザッカーバーグと周囲の若者たちは、どうやって生きればいいのか分かっていないように見える。この作品がアメリカ人の心に強く訴え掛けるのは、自分でも同様の問題を感じている人が多いからだ。反抗的なハッカーがフェースブックをつくった動機が孤独だったように、フェースブックに登録し頻繁にアクセスする私たちも孤独を感じているのだと、この映画は観客に気付かせる。


gc_041010a.jpg
不器用な若者 脚本以上にザッカーバーグの性格表現をこなしたアイゼンバーグ(左)
©2010 Columbia TriStar Marketing Group, Inc. All Rights Reserved.

人間関係が破綻した人々

 確認しておくべきことがある。映画の中の──そして、この記事で言及する──「マーク・ザッカーバーグ」を実在の実業家マーク・ザッカーバーグと同一視すべきではない。近寄ってくる女の子と片っ端からセックスし、友達を裏切り、それでも憎めないザッカーバーグは、あくまでも映画の登場人物。監督のフィンチャーと脚本家のアーロン・ソーキンがつくり上げたキャラクターだ。

 ソーキンは先頃、ニューヨーカー誌でこの映画をこう要約した。「何らかの面で人間関係の築き方に難がある人たちが、世界最大のSNSをつくる話」

 映画が始まってすぐに、ソーキンの言葉の意味が分かる。恋人に捨てられたザッカーバーグ(ジェシー・アイゼンバーグ)が酔っぱらい、怒りをぶちまけ、ブログで元彼女を「アバズレ」と罵る。その夜、ザッカーバーグはハーバード大学のサーバーに不法に侵入し、学生たちがクラスメイトの女子学生のルックスの点数を付けるためのサイトをつくる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米半導体マーベル、同業セレスティアルAIを買収

ビジネス

豪GDP、第3四半期は前年比2年ぶり大幅伸び 前期

ワールド

「非常戒厳」宣言から1年、韓国李大統領「加害者は法

ワールド

イタリア、ウクライナ軍事援助に関する法令の承認延期
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 2
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 3
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 4
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止…
  • 5
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 6
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドロー…
  • 7
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 8
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯…
  • 9
    22歳女教師、13歳の生徒に「わいせつコンテンツ」送…
  • 10
    もう無茶苦茶...トランプ政権下で行われた「シャーロ…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中