最新記事

国家が牛耳る石油大国のワナ

ルラ後のブラジル

新大統領で成長は第2ステージへ
BRICsの異端児の実力は

2010.09.28

ニューストピックス

国家が牛耳る石油大国のワナ

埋蔵量800億バレルとも言われる巨大油田の権益がルラ大統領の野望に火を付ける

2010年9月28日(火)12時00分
マック・マーゴリス(リオデジャネイロ支局)

 ブラジルの国営石油会社ペトロブラスが、同国南部の大西洋沖の海底に巨大油田を発見したのは07年のこと。以来、普段は冷静沈着な政府高官も「ハイ」になりっぱなしだ。

 油田の存在が確認されると、ルイス・イナシオ・ルラ・ダシルバ大統領はヘリコプターで沖合の採掘現場へ駆け付け、作業服にヘルメット姿で原油に手を浸すパフォーマンスをしてみせた。

 首都ブラジリアでは9月22〜23日、この油田に関するセミナーが開催された。ディルマ・ルセフ官房長官は基調講演で「正確な埋蔵量は今のところ予測もつかない」と発言。「神はブラジル人であるに違いない」と言ってのけた。

 油田の発見までには長い試行錯誤があった。開発担当者は海面下7000メートルの地点を試掘。海底の岩や砂層のさらに下方、南アメリカ大陸棚の岩塩層下のプレサル層に驚異的な量の原油が眠っていることを探り当てた。

 この深海にあるプレサル層油田の3つの地域の確認埋蔵量の合計は90〜150億バレル。西半球でこれほどの量の原油が見つかったのは30年以上ぶりだ。

 だが、驚くのはまだ早い。試掘油井のテスト結果を見る限り、油田の総面積はイタリアの国土の約半分に相当する14万9000平方キロ、埋蔵量は最大800億バレルに上ると、専門家は言う。しかも埋まっているのは上質の軽質油。ルラに言わせれば「ブラジルは当たりくじを引いた」のだ。

 同時に破滅の可能性も手にしてしまった。石油はカネを生むが、経済発展も生み出すとは限らない。エコノミストが言う「オランダ病」がはびこるせいだ。

 北海で天然ガス資源の開発が進んだ60年代から、オランダには大量のドルや国外からの投資が押し寄せた。おかげで通貨ギルダーの為替レートが上昇。オランダの輸出業や国内産業は低迷に陥った。

 こうした現象は貧しい国で起きることが多い。その一例が、70年代にオイルブームに沸いたナイジェリアだ。IMF(国際通貨基金)の研究によれば、70〜00年までの間にナイジェリアの1人当たり所得はわずかに減少したにすぎないものの、1日1ドル以下で暮らす最貧困層は3600万人から7000万人に増加した。

 ベネズエラでは、ウゴ・チャベスが大統領に就任した99年当時、原油生産量は日量300万バレル近かった。だが現在、その量は220万バレルに低下。優良企業だったベネズエラ石油公社(PDVSA)は政府のための会社と化し、国内の貧困問題はほとんど改善されていない。

 ブラジルは産油国に付きまとう呪いを避けることができるのか。ほんの2〜3年前なら、ばかばかしい問いだと一蹴されただろう。ブラジルといえば、エネルギー分野の優等生じゃないか、と。

 ブラジルの再生可能エネルギー利用率は今や世界1位。発電電力量の8割が水力発電で賄われ、乗用車の半分はサトウキビを原料とするエタノール燃料で走っている。ペトロブラスはプレサル層油田を発見する前から、優れた技術や先駆的な投資計画によって世界で最も収益性の高い石油会社の1つになっていた。

 ブラジルは08年にエネルギーの完全自給を達成。既存の油田(確認埋蔵量は約140億バレル)の生産日量が200万バレルと、初めて国内需要を満たした。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、レアアース輸出ライセンス合理化に取り組んでい

ビジネス

英中銀、プライベート市場のストレステスト開始へ

ワールド

ウクライナ南部に夜間攻撃、数万人が電力・暖房なしの

ビジネス

中国の主要国有銀、元上昇を緩やかにするためドル買い
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国」はどこ?
  • 3
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 4
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 8
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 9
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 10
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中