最新記事

CO2排出戦争が始まった

温暖化「うま過ぎる話」

エコ助成,排出権,グリーンニューディール
環境問題はなぜ怪しい話や
誤解だらけなのか

2009.11.24

ニューストピックス

CO2排出戦争が始まった

ポスト京都議定書をめぐる議論は貿易交渉並みに混乱を極めている。保護主義に走る各国の「わがまま」な主張の行方は?

2009年11月24日(火)12時02分
シュテファン・タイル(ベルリン支局)

 世界の多くの国々は長年、気候変動を防止する戦いにアメリカも加わってほしいと願ってきた。だが、その願いがかないつつある今、別の問題が持ち上がっている。

 バラク・オバマ米大統領は温室効果ガスの排出削減に関してリーダーシップを取ると宣言。6月26日には、包括的な地球温暖化対策をうたった「米クリーンエネルギー・安全保障法案」が米議会下院で可決された。

 しかしヨーロッパとインド、中国の当局者は、そんなアメリカの心変わりが助けになるどころか、利害の激しい対立を引き起こしかねないと心配し始めた。世界中で温暖化防止をめぐる「貿易戦争」が勃発する恐れがあると懸念する人々もいる。

 こうした問題もあって、温室効果ガスの排出を規制する交渉は前途多難だ。12月には、12年に失効する京都議定書に代わる温室効果ガス排出削減枠組みの合意を目指し、約200カ国の代表がデンマークのコペンハーゲンで気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)を行うというのに、厳しい状況が続いている。

 6月にドイツのボンで開かれた温暖化対策の枠組みに関する国連作業部会では、連日激しい議論が戦わされた。だが、20年までに温室効果ガスを90年のレベルから25〜40%削減するという目標に関して意見がまとまらないまま、閉幕した。この数値目標は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の科学者が地球の平均気温の上昇を2度までに抑えるために必要な数値として算出したものだ。

あきれる日本の目標値

 「ボンで分かったのは、すべての問題について意見がばらばらだということだけだ」と、世界自然保護基金(WWF)のレジーヌ・ギュンターは言う。

 交渉のテーブルに載せられた各国の提案は、どれもこの数値から程遠い。京都議定書から離脱したアメリカは、20年までに05年比で14%削減という目標を打ち出している。だがそれは、排出削減量の基準に用いられることが多い90年レベルに戻すだけのことだ。

 麻生太郎首相は6月10日、日本の温室効果ガス削減の中期目標として20年までに90年比で8%の削減を目指すと発表した。だがこの数字は、京都議定書での削減義務に比べて2ポイントしか増えていない。気候変動枠組み条約のイボ・デ・ボーア事務局長は日本の提案について「この2年半で、これほどあきれさせられた出来事はない」と語った。

 EU(欧州連合)が提案する90年比20%削減でさえ、国連が掲げる目標には届かない。もっともEUは他の国が相応の削減に同意すれば30%削減に変更する構えだ。

 中国は07年にアメリカを抜いて世界最大の排出国となったが、削減を完全に拒否し、先進国に排出量40%の削減を求めている。さらに、先進国が途上国の排出量削減のためにGDP(国内総生産)の1%を拠出することも要求。アメリカと中国が6月前半に北京で行った温暖化対策に関する協議で目立った成果を挙げられなかったのも当然だ。

 各国の思惑がばらばらなため、12月のCOP15で重要な合意に達するのは難しいだろう。

 排出規制をめぐる交渉では、どの国も自分の国が最大の削減を強いられないように理屈をこねる。例えば日本は、省エネ化では既に世界屈指のレベルであり、麻生首相の提案以上の削減は必要ないと主張している。

 最大にして最も埋め難い溝は先進国と途上国の間にある。97年に採択された京都議定書では、貧しい国は規制から除外されていた。だがその後10年の急速な工業化によって、中国や他の新興国の排出量増加を大幅に抑制しない限り、地球規模の排出削減はおぼつかないことが明らかになった。

 一方、途上国にすれば、先進国に追い付き、貧困から抜け出すには経済を成長させ続けるしかない。排出削減のために成長にブレーキをかけるわけにはいかない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

過激な言葉が政治的暴力を助長、米国民の3分の2が懸

ビジネス

ユーロ圏鉱工業生産、7月は前月比で増加に転じる

ワールド

中国、南シナ海でフィリピン船に放水砲

ビジネス

独ZEW景気期待指数、9月は予想外に上昇
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中