コラム

プライベートジェット旅行に、50万ドルのインドネシアの島巡り......米最高裁の保守派判事が共和党の大型献金者から受けていた「巨額接待」疑惑がヤバすぎる

2023年04月21日(金)18時08分

トーマス判事は就任時からセクハラ疑惑が噴出し物議を醸す存在だった EVELYN HOCKSTEIN―REUTERS

<「倫理的高潔」を最も求められる立場の最高裁判事が、数十年にわたって共和党支持の不動産王からナイショで豪華な休暇や贈り物を受け取っていたという衝撃の事実が発覚>

クラレンス・トーマスは1991年に当時のブッシュ(父)大統領から最高裁判所の判事に指名されたときから、間違いなく最も物議を醸す判事だった。

アメリカ史上2人目のアフリカ系判事であるトーマスは、前職の雇用機会均等委員会(EEOC)時代の部下からセクハラを告発され、当時史上最も僅差(52対48)で辛うじて米上院の承認を得た。トーマスは一貫して無実を主張したが、人格と誠実さに対する猛烈な攻撃が相次ぎ、過去に例のない大量の反対票が投じられた。

先日、トーマスが共和党の大口献金者で不動産王のハーラン・クロウから数十年にわたり豪華な贈り物や接待を受けていた事実が明るみに出た。精巧なブロンズ像、プライベートジェットでのリゾート滞在、50万ドルのインドネシアの島巡り......。

トーマスが1人の億万長者から受け取ったプレゼントの額は、過去20年間の判事としての給与総額を明らかに上回る。しかもトーマスは、接待の事実を開示していなかった。最高裁判事への倫理面での期待を大きく裏切る行為だ。

最高裁は「財布の力も剣の力も」持たず、その組織としての機能は全面的に国民の信頼に依拠している。そのため、最高裁判事には特に高い倫理的高潔さが求められる。長い目で見れば、最高裁判事の権力は大統領よりも大きいとも言える。大統領は任期が終われば退任するが、最高裁の憲法解釈はその後何十年も生き続けるからだ。

トーマスの支援者がビジネス界の大物であるという事実は、その直接的な経済的利益がトーマスの法的判断で変わる可能性が高いことを意味する。さらにクロウがトーマスを招待した旅行やリゾート休暇には、最高裁に直接・間接的にさまざまな請願を行っている他の企業幹部も同行していた。

トーマスが接待の事実を開示しなかったことは、本来はそれを受けるべきではないと承知していたことを暗に認めるものだ。ただし、豪華な贈り物や接待がトーマスに法的・政治的問題をもたらす可能性は低い。

倫理規則やガイドラインに関しては、最高裁は政府機関の中でも特異な存在だ。憲法解釈の最高権威という地位と、その正統性を全面的に国民の信頼に依拠するという特性を考えれば、本来は利益相反の開示について最も厳格なルールを適用すべきなのに、実際には不適切な行為の定義が最も緩い政府機関だ。

「はした金」なら問題ないのか

トーマスの職務遂行に影響が出ることもなさそうだ。保守派は今回の一件を単なる空騒ぎと見なして一蹴する公算が大きい。有名人の友人が休暇をより楽しく効率的に過ごせるように、金持ちの友人が「はした金」の範囲で便宜を図るのは日常的な出来事だと主張するはずだ。

今回の調査報道の影響があるとすれば、これまでも最高裁の倫理基準の甘さを嘆いていた議会が、今後はこうした不適切な事例が起きないように、厳格なガイドラインの制定に動くきっかけを得たことだろう。

クロウがトーマスに連邦法で開示が義務付けられている便宜供与を行った可能性はまだある。今後、家宅購入やトーマスの資産の価値を大きく増やす改修・修繕工事の証拠が出てくるかもしれない。

いずれにせよ、この一件は現在のアメリカの政治状況をほぼ完璧に体現した出来事だ。かつて清廉潔白と思われていた機関に対する信頼の低下。二極化した党派的反応、そして深刻な機能不全に陥った政府機構――。

トーマスの判事としてのキャリアは、評価が真っ二つに分かれた状態で始まり、同じように評価が割れる中で終わりそうだ。この世にはずっと変わらないものもある。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

WHO、成人への肥満症治療薬使用を推奨へ=メモ

ビジネス

完全失業率3月は2.5%に悪化、有効求人倍率1.2

ワールド

韓国製造業PMI、4月は約2年半ぶりの低水準 米関

ワールド

サウジ第1四半期GDPは前年比2.7%増、非石油部
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 7
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 8
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 9
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 10
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story