コラム

トランプ支持率の下げ止まりは民主党の敵失なのか

2017年06月22日(木)15時40分

その一方で、民主党とメディアが「ムリに全国規模の関心を集めた」ことが、かえって勝機を逸することになったという見方もあります。民主党のジョン・オソフ候補は、前職はドキュンタリー番組のディレクターやライターをしていたジャーナリストですが、南部ジョージア州の補選に出るということで、政策に関しては「中道と左派の中間」だと自称し、サンダースよりも、ヒラリーよりも中道に寄った政策を主張していました。

ところが、一旦この「保守の牙城ジョージア6区」が「崩せるかもしれない」という報道が広まると、全国の民主党支持者が熱狂的な関心を寄せるようになったのです。その結果として、小口の個人政治献金が怒涛のように集まってしまい、全部で3000万ドル(約33億円)が集まると同時に、ボランティアなども殺到したのです。

結果として選挙戦は「トランプという差別的で品格に欠けた人物を許さない」という一種の抵抗運動になってしまいました。そうなると、共和党側も「負けられない」ということで、資金も集まり、こちらも1700万ドル(約19億円)を集め、そのカネで先ほどのようなネガティブ広告が大量に出稿されたのです。

そこでオソフ候補は、ドキュメンタリー映画作家ということから「中道ではなく、アフリカの不幸などを撮影に行く極左候補」だという烙印を押され、同時に「民主党はナンシー・ペロシ(下院院内総務)が影で操るトランプ・ヘイトの金権選挙をやっている」という攻撃を受けたのです。

そうなると、そもそもジョージア6区というのが保守の牙城だということが意味を持ってきます。それこそ、90年代には共和党のニュート・ギングリッチがここから連続して選出され、下院議長として「小さな政府論・均衡財政論」を掲げてクリントン政権と対決した歴史もあるのです。

【参考記事】共和党議員銃撃、「左派」支持者の凶行に衝撃

仮に、ここまで全国区の関心を集めることがなく、オソフ候補が中道的な政策を静かに語ることができたら、いくら保守的な選挙区でも「反トランプ票」を集めて、過半数を取ることができたかもしれない、そんな議論もあるぐらいです。また、「トランプへの抵抗運動一色」ではなく「景気や雇用、経済政策」をしっかり語るべきだったという反省の声も聞かれます。

中には、「我々民主党には新しいリーダーシップが必要だ」(マサチューセッツ6区選出のセス・モールトン下院議員)という言い方で、公然とナンシー・ペロシ院内総務の退陣を求める声も出てきています。

現在の議会下院は定数435議席ですが、共和党が239議席(プラス今回補選の2議席)で過半数を握っています。これに対して民主党は193議席が現有勢力です。何よりも、大統領の弾劾裁判の発議には下院の過半数が必要で、そのためには次回2018年11月の中間選挙で25議席を上乗せして過半数を取らなくてはなりません。

そう考えると、今回の補選の結果、そしてトランプ支持率の「下げ止まり」というのは、民主党にとってはかなり厳しい事態です。世代交代を進め、政策論争での戦闘モードに戻れるか、党としての正念場に来ていると言えます。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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