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冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
経団連レポート・日本の財界は革新を拒否して成長を放棄するのか?
2012年4月16日に日本経団連のシンクタンク、21世紀政策研究所の「グローバルJAPAN特別委員会」が発表した「グローバルJAPAN 2050年シミュレーションと総合戦略」という107ページのレポートは何とも不思議な内容です。本文は日本経団連のサイトからダウンロードできますので、是非とも多くの方に議論の材料にしていただきたいと思うのです。
まず「シミュレーション」の方ですが、基本的には4つのシナリオが提示されています。
(ア)生産性が「失われた20年」の低迷から回復。この場合でも人口減の影響から2030年代からマイナス成長となり、2050年にはGDPは世界第4位に転落、一人当たりGDPは韓国に抜かれる。
(イ)生産性低迷が回復しない。この場合は20年代からマイナス成長となり、GDPは5位、一人当たりGDPは21位に転落。
(ウ)更に財政悪化の影響が出た場合。2010年代からマイナス成長となり、GDPは9位、一人当たりGDPは28位に転落し、完全に先進国から脱落。
(エ)女性の労働力率が改善しスウェーデン並みになる。(ア)のシナリオよりGDPは2.8%アップになるが、GDPが4位に転落することには変わらない。
以上のシミュレーションが基本としてあり、これに加えて新興国が先進国入りの前に成長が止まった場合とか、欧州危機が深刻化した場合などが検討されていてその場合はもっと悪い数字になるわけです。
ここまでの話については、財界も正直に悲観論を直視するようになったというように何となく好感を持つ、あるいは議論の材料にはなるだろうという印象を持った方もあると思います。ですが、後段の「総合戦略」の部分を重ねて見ると、私としては猛烈な違和感しか残らなかった、そう申し上げるしかありません。以降、その違和感を列挙してみたいと思います。
(1)2050年つまり38年後を展望していながら、終身雇用だとか、正規・非正規雇用の区別、あるいは上司による部下へのOJTなどが残っているというような意味不明の前提が入っていること。
(2)女性の労働力に期待すると言いながら、育児や家事の負担は女性が担うという発想を全く捨てる気がないこと。例えば女性向けの「時短正社員」構想などという提案が入っているが、一部の女性を管理職候補として期待する一方で、育児負担は女性に背負わせるという旧態依然とした発想。
(3)企業経営の合理化に必要な国際会計基準の導入に、まだ抵抗を示していること。オリンパス事件の総括も大甘。
(4)国家債務がどんどん拡大した場合にも、破綻がどこで起きるのかは予測不可能だという理由で、債務がGDPの600%になるという非現実的なシミュレーションを行い、これを財政「破綻」ではなく、財政「拡散」と呼んでいること。日本がGDPの600%の赤字を積み上げるというのは要するに3000兆円のマイナスであり、世界経済を道連れに破綻するということになり、ブラックジョークにしてもひどすぎる。
(5)人口減に対して移民導入を提案する度胸もない一方で、少子化に対する抜本的な対策もなく、人口減による経済規模縮小に対して、お手上げ状態であること。
(6)今後の日本経済は、中国の経済成長頼みというのは、ある意味で正直。一方で、2050年までのタイムスパンを想定し、そこまでに中国にも先進国に近い成熟を期待するなら、中国が開かれた社会に移行するプロセスは必須。にも関わらず、中国の変革がハードランディングにならないように、日本がどう振る舞うべきかの危機感がない。
(7)そもそも2050年になって、カメラとかガソリン車、テレビ、コピー機などの「モノ」を作っている会社や、国際化の半端な金融機関などが残っている可能性はほとんどゼロ。にも関わらず産業構造を自己変革させる発想がない。
私は、自分で言うのも妙ですが、相当程度に冷静な人間だと思います。ですが、このレポートを読んで怒りを抑えることができなくなりました。冒頭では、違和感などという言い方でオブラートに包んでみましたが、やはり無理です。怒りの核にあるのは、マイナス成長ということを簡単に語り、しかもこれを避けるための抜本的な改革も提案できていないということへの反発です。
この指摘を「正直」だという評価はできません。成長がマイナスになるということは、巨大な人命の喪失、人心の混乱、国土の荒廃を招くからです。勿論、この社会はカネが全てではありません。公共セクターや、NGOなどはカネとは異なる論理で動いており、それはそれで良いのです。ですが、その中で「成長」を担うべき民間セクターが自らそれを放棄するというのには、信じ難い思いがするのです。
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