コラム

今、世界と日本がウクライナ戦争終結を考えるべき理由

2022年10月05日(水)17時40分

戦争の長期化vs早期休戦
早期休戦だと:

 ・死亡者数、負傷者数を減らせる
 ・復旧・復興の作業に取り組める。
 ・軍事予算を復興予算、福祉強化に充てられる。
 ・難民が帰還できる。(2月以降、1300万人ものウクライナ人が難民生活を余儀なくされている。)
 ・経済活動、農業の再開ができる。
 ・子供が学校に戻れる

難民を受け入れている近隣諸国やウクライナ支援を続ける友好国、そして食糧不足に苦しんでいる国々にも戦争の長期化は大きな負担になる(ウクライナへの支援は750億ユーロを超えている)。が、それよりも家に帰れない、仕事ができない、学校に通えない戦地の当事者の負担のほうがはるかに重い。なにより、貴い命が毎日大量に失われるなか、早期終結を最優先したい人も多い。

賠償を受ける vs 自力で復興する
 ・専門家の試算によると現時点でも復興費は3500億ドルに上る見込み(ウクライナの首相は7500億ドルだという)。
 ・戦争が続く限り、その額も増える

戦争を続ければ事態が悪化する恐れも

賠償の名目ではなくても、領土を譲渡する代わりに復興支援金として、ロシアの石油・天然ガスの売り上げの一部をウクライナの復興に充てるなどの条件を休戦協定に盛り込めるはず。だが、これは妥協を決めた時点で要求するしかない。もし、領土を完全奪還するまで戦った場合、ロシア軍を国境まで押し返しても、ロシア本土に侵入し完敗させないかぎり、同じ条件は引き出せないはず。ロシアの完敗は現実味のない夢だ。ロシアを追い返した後、制裁緩和の交換条件としてある程度の復興協力は得られるかもしれないが、妥協しないなら、自力や友好国からの支援のみで復興する覚悟が必要だ。

結果が確実な現在vs 未知数な未来
 ・プーチンはあらゆる手段で「自国の領土」を守ると、すでに宣言している
 ・あらゆる手段に、核兵器(特に小規模の戦術核)も含まれると示唆している
 ・戦争の行く末は誰も見通せない

この先、戦い続けても、勝利する保証はない。さらに、プーチンは併合した地域の「国防」という口実で、核兵器も含む異次元の軍事手段を行使する可能性も少なからずある。

戦争が長期化し、被害規模が拡大しても最終的に領土を完全に奪還できない可能性や、むしろ今よりも領土を失う可能性もある。最悪の展開も想定しないといけない。だったら、ウクライナ軍に勢いがあり、ロシア国内が乱れている現時点で和平交渉を行い、妥協してでも納得のいく結末を確保した方がいいという考え方もある。

もちろん、過去の合意も国際法もないがしろにして侵攻したロシアが新しい協定を守る保証もないが、違反した場合の懲罰を明記し、諸外国も保証国とることなどで、その心配は少し緩和できるはずだ。

ここまで整理してわかるのがこれといった「正解」がないことだ。もちろん、核兵器など使われず、完全に領土を奪還したうえ、ロシアに大金の賠償を払ってもらえる結果を早期に成し遂げられたら、パーフェクトだ。だが、そんな夢物語を信じていたら現実的な国防も外交も成り立たない。

ウクライナ政府や国民はどういう条件なら呑めるか、今のうちに考えないといけない。同時に、日本を含む友好国の政府と国民もしっかり考えよう。最後まで戦うとなったら、戦中の支援も休戦後の復興支援もする覚悟が必要だ。ロシアに妥協すれば、それを見た別の(日本の近くの)大国が力で領土拡大を試みるかもしれない心配も出てくる。

苦渋の選択だからこそ、世界中の利害関係者が早くからじっくり考えて議論をしないといけないのだ。と、ベンジャミン・フランクリンが言っていたよ。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

英中銀の12月利下げを予想、主要金融機関 利下げな

ビジネス

FRB、利下げは慎重に進める必要 中立金利に接近=

ワールド

フィリピン成長率、第3四半期+4.0%で4年半ぶり

ビジネス

ECB担保評価、気候リスクでの格下げはまれ=ブログ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 6
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 7
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 8
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 9
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 10
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 5
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 8
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story