シリアの惨状を伝える膨大な映像素材を繋ぎ合わせた果てに、愛の物語が生まれる
この新作でも彼は、亡命者であることの負い目に苛まれながらも、そんな姿勢を貫こうとする。映画には、彼がYouTubeで見つけた、政府軍に捕らえられ、拷問を受ける少年の映像が、全体の象徴のように挿入される。彼が膨大な素材から選び出した映像には、弾圧の犠牲になった人々への敬意が表れ、人間の尊厳へのこだわりが滲む。
何を撮るべきかを模索し、より身近な世界を掘り下げていく
但し、再構築された映像の流れは、大衆による民主化運動から武装闘争へと移行するなかで、政府と反体制組織の二元論的な図式に陥りかける。しかしそこで、オサーマの視点を大衆へと引き戻すのが、政府軍に包囲されたホムスに生きるシマヴの存在だといえる。彼女はオサーマとの交流を通して何を撮るべきかを模索し、政府軍による砲撃のような、誰もがカメラを向ける現実ではなく、より身近な世界を掘り下げていく。それはたとえば、戦火に巻き込まれて深い傷を負った猫たちの痛々しい姿や、彼女が始めた学校に集まった子供たちの表情や、そこで彼らに見せるチャップリンの映画の一場面などだ。
シマヴが作ったのは革命派の学校だったが、そんな彼女は、学校を勝手に運営し、髪も隠していないなどの理由で、政府軍ではなく革命派に拘束される憂き目にも遭う。それでもホムスから逃げ出そうとしない彼女に、オサーマの心は揺れ動き、嫉妬にも似た感情を抱いたあげく、自らを省みることになる。彼は、独裁を生み出すのは社会の責任であり、独裁者を屈辱することは簡単だが、自身のなかに潜む独裁者を見つけ出すのははるかに難しいと考える人間だった。亡命者となった彼は、この映画を通して、あらためてそんな内なる独裁者の存在を確認していたのかもしれない。
《参照記事》
CAPTURED ON FILM: Can dissident filmmakers effect change in Syria? by Lawrence Wright | THE NEW YORKER
○映画情報
『シリア・モナムール』
監督:オサーマ・モハンメド
公開:6月18日よりシアター・イメージフォーラムほかにて公開 全国順次ロードショー
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