コラム

今回の『スティーブ・ジョブズ』は、伝説の3つのプレゼン直前の舞台裏を描く

2016年01月22日(金)16時50分

 アップルの快進撃はApple IIから始まったが、その生みの親といえるのはもう一人のスティーブであるウォズニアックだった。だからジョブズは自分が生んだといえる製品を作ろうとし、Macintoshの発表会を迎える。そんな1幕と3幕でウォズニアックはジョブズに対して、実質的にアップルを支えたApple IIのチームに対する謝辞を執拗に要求するが、ジョブズはそれをはねつける。2幕ではウォズニアックがNeXT Cubeを失敗作と断言する。もちろん、ジョブズを追放したスカリーとの激しい口論も描かれるが、この3幕のドラマでは、それぞれの時代のジョブズ像が製品と結びつけられ、その変貌や成長が描き出される。

監督は、『トレインスポッティング』『スラムドッグ$ミリオネア』のダニー・ボイル
.

 そして、父親としてのジョブズにもスポットがあてられる。元恋人のクリスアンと娘のリサが、あるいは成長したリサが一人で会場を訪れ、ジョブズと対面する。しかし、そこに話を進める前に、注目しておくべき人物がいる。それが、マーケティング担当のジョアンナ・ホフマンだ。彼女はジョブズがアップルを追放された後も行動をともにし、MacintoshとNeXTの開発チームのオリジナルメンバーになった。ソーキンはそんなホフマン本人と会って感銘を受け、脚本で彼女が重要な位置を占めることになったようだが、彼女の存在はジョブズの複雑な人物像を炙り出す役割も果たしている。

 Macintosh開発チームのメンバーは、1981年から年に1回、"ジョブズによく立ち向かったで賞"を出すようになり、81年と82年にはホフマンが受賞している。彼女はカリスマに丸め込まれてしまうのではなく、場合によっては抵抗し、対等に話をすることができた。またジョブズの伝記には以下のような記述もある。「自身も両親が離婚し、10歳まで父親を知らずにつらい思いをしたホフマンは、いい父親になってあげてとジョブズにアドバイスをする。ジョブズはこの忠告に従って良かったとのちに感謝した」

 つまり、ホフマンはジョブズのプライベートな部分にもそれなりに踏み込むことができた。ちなみに、彼女の父親とは、ポーランド人の映画監督イェジー・ホフマンである。ソーキンは、そんなホフマンの立場やジョブズとの関係を最大限に生かし、カリスマのジョブズと父親のジョブズを巧みに結びつけていく。世界一のコミュニケーターは、娘との間にある深い溝を自分ではどうすることもできない。しかし、ホフマンが緩衝材となることで、最後にカリスマと父親の境界が消える瞬間が訪れることになる。


●参照/引用文献
『スティーブ・ジョブズ』ウォルター・アイザックソン 井口耕二訳(講談社、2011年)
『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン』カーマイン・ガロ 井口耕二訳(日経BP社、2010年)

●映画情報
『スティーブ・ジョブズ』
監督:ダニー・ボイル
公開:2月12日

プロフィール

大場正明

評論家。
1957年、神奈川県生まれ。中央大学法学部卒。「CDジャーナル」、「宝島」、「キネマ旬報」などに寄稿。「週刊朝日」の映画星取表を担当中。著書・編著書は『サバービアの憂鬱——アメリカン・ファミリーの光と影』(東京書籍)、『CineLesson15 アメリカ映画主義』(フィルムアート社)、『90年代アメリカ映画100』(芸術新聞社)など。趣味は登山、温泉・霊場巡り、写真。
ホームページ/ブログは、“crisscross”“楽土慢遊”“Into the Wild 2.0”

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