コラム

中国が西沙諸島に配備するミサイルの意味

2016年02月19日(金)07時21分

 今回のミサイル配備は、米ASEAN首脳会議の直前に明らかになった。中国は、当然、米国等の衛星が中国の活動を監視していることを理解している。見られていることを理解したうえで、このタイミングを狙ったのだ。米ASEAN首脳会議で、南シナ海の問題が取り上げられることは、すでに以前からわかっている。

 中国は、米国の非難に対して、中国が譲歩することはないという意思を示したのだ。東南アジア各国も、米中対立のエスカレートを慎重に見守っている。東南アジアの全ての国が、一方的に米国支持に動くことはない。これは、中国が掲げる「三戦(世論戦、心理戦、法律戦)」の内の心理戦でもある。

終わりの見えないチキンレース

 先に、米中衝突までには時間があると述べたが、時間があること自体が、米国にとって有利なわけではない。オバマ大統領の「話せばわかる」という理想主義が、中国に、軍備増強と南シナ海における人工島建設の猶予を与えてしまった。米国防総省は、中国の準備が整わないうちに圧力をかけて、中国の意図を挫きたかったにもかかわらずである。

 チキンレースで衝突コースにある米中のパワーバランスは常に同じではない。現段階では、時間が経つに連れて中国が強力になる。チキンレースは、意志が弱い方が先に避けるものだが、双方が引かなければ強い方が勝利する。ただし、衝突すれば、双方のダメージは計り知れない。

 中国は、国内情勢から、簡単にレースを回避することができない。一方の米国は、中国が強力になる前に二者の距離を詰めて、中国に回避コースをとらせたい。衝突する可能性があるのであれば、相手が強くなってしまう前に叩いてしまいたいと考えるのは当然である。

 中国は、米国の行動が、習近平国家主席が呼びかける米中の「新型大国関係」に背く挑発行為だと反発している。中国は、米国がブレーキをかけて米中衝突を避けることを要求しているのだ。しかし、米国は、オバマ大統領でさえ、中国が主張する「新型大国関係」を慎重に避けている。今後、しばらくの間、米中間の緊張が高まることは避けられない。

プロフィール

小原凡司

笹川平和財団特任研究員・元駐中国防衛駐在官
1963年生まれ。1985年防衛大学校卒業、1998年筑波大学大学院修士課程修了。駐中国防衛駐在官(海軍武官)、防衛省海上幕僚監部情報班長、海上自衛隊第21航空隊司令などを歴任。安全保障情報を扱う「IHSジェーンズ」のアナリスト・ビジネスデベロップメントマネージャー、東京財団研究員などを経て、2017年6月から現職。近著『曲がり角に立つ中国:トランプ政権と日中関係のゆくえ』(NTT出版、共著者・日本エネルギー経済研究所豊田正和理事長)の他、『何が戦争を止めるのか』(ディスカバー・トゥエンティワン)、『中国の軍事戦略』(東洋経済新報社)、『中国軍の実態 習近平の野望と軍拡の脅威 Wedgeセレクション』(共著、ウェッジ)、『軍事大国・中国の正体』(徳間書店)など著書多数。

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