コラム

【森友決済文書改ざん】財務省報告書はフェアだと思う

2018年06月06日(水)15時12分

文書改ざん当時、財務省の理財局長だった佐川宣寿前国税庁長官の証人喚問(3月27日、参院予算委員会) Toru Hanai-REUTERS

<大蔵省にいたから言うのではないが、これほど率直かつ誠実な報告書は珍しい。すべての経緯が非常によくわかる>

報道もひと段落したと思うので、コメントしたい。

森友問題に関する決済文書改ざんの調査報告書が昨日、公表された。

私は、素晴らしい調査報告書だと思った。

これは、大蔵省にいたことがあるから、バイアスがかかっているのではなく、これほど率直なかつ誠実、そして正確でわかりやすい報告書は、珍しいのではないか。

読んでみると、すべての経緯が非常によくわかる。

この報告書で不十分だとか批判する人々は、読んでいないに違いない。読んだ上でそんなことを言っているのであれば、内部調査の報告書にいったい何を期待しているのか、と逆に問いたい。

改ざんの動機は書いてある

理財局長が官邸の意向を忖度したのかどうか、そもそも改ざんの動機がはっきりしない、肝心な点が解明されていない、という批判が多いようだが、その批判はまったくナンセンスだ。

第一に、改ざんの動機ははっきり書かれており、あまりに国会が混乱しているので、これ以上、細部のささいなところでの紛糾が大きくなることは、この問題に関しても適切でないと判断し、本質に影響しない部分で、冗長なところを削除した、ということが、はっきり読み取れる。

総理夫人や政治家の関与に関する記述こそが本質だ、というのは、総理やその政治家を批判するための材料がほしい人々にとってはそうであるが、森友案件の本質とは関係ないと、改ざんを行った関係者たちはそう思った、ということが書かれている。そして、改ざんはどんな内容であっても許されるものではない、ということがはっきり書いてある。

第二に、官邸を忖度したかどうかは、確定的に報告書にかけるものではない。そう記載された文書や、忖度した本人の日記、あるいはメールなどが発見されれば、報告できるが、そうでない限り、それは推測に過ぎず、このような公式文書が、憶測記事のようなことを書くことはできないのは当然だ。

この改ざん自体や、政治家からの間接的な指示などがあったかどうか、刑事事件に当たるかどうかは、司法の判断に委ねざるを得ず、不起訴の方向ということは伝わったが、今後も、さまざまな角度から、司法による判断が下る可能性はあるので、潜在的な被疑者に対して、その人権を無視して、ここで憶測的な記述を、現在の財務省としては本当は書きたかったとしても書くことはできない。

この報告書は、非常にフェアで誠実なものだと強く感じた。

*この記事は「小幡績PhDの行動ファイナンス投資日記」からの転載です

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プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

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