最新記事
シリーズ日本再発見

山辺赤人が『万葉集』で詠んだ富士山は、たった2文字で解釈が変わる...「降りける」か「降りつつ」か?

2025年01月01日(水)09時00分
ピーター・J・マクミラン (翻訳家・日本文学研究者)

『百人一首』の本文は現実的でない、という批判もあるようだ。だが私は、田子の浦に出て白い山頂を見やりながら、目には見えなくても、あの山頂には今も雪が降り続いているのだろうと想像してみるこの歌が好きだ。

たった二文字で解釈ががらっと変わるのも、そして『万葉集』と『百人一首』、それぞれの本文において、富士山が異なる魅力を発揮しているのも、とても興味深い。


 

ところで、私は富士山が大好きで、富士山の麓(ふもと)に別荘を構え、長年、週末ごとに富士山の近くで過ごしていたことがあったほどである。

翻訳者としても、古くは『風土記』や『万葉集』から、現代の俵万智まで、富士山が登場する文学作品を幅広く探して、数年かけてその英訳を完成させた。『富士文学百景』という名で、いつか出版できればと思っている。

また、私は「西斎」の雅号で「新富嶽三十六景」という版画も制作している。もちろん、「西斎」は「富嶽三十六景」を描いた葛飾北斎に因んだ名前である。

私は常々、日本の古典文学作品に見られるような人間と自然とが一体化した世界観と、自然から切り離された現代に生きる私たちの感覚との間に溝を感じている。それを表現するために、北斎の「富嶽三十六景」へのオマージュとして、「新富嶽三十六景」を制作したのだ[編集部注:トップページの写真]。

その中から一点ご紹介したい。富士山が世界遺産に登録されたお祝いに、富士山と折り鶴をあわせてみた。富士山ひいては日本文化が世界に羽ばたいていく様を表現し、日本文化が世界により広まっていくことを祈願した作品である。


yamabe-720.jpg


ピーター・J・マクミラン(Peter MacMillan)
アイルランド生まれ。アイルランド国立大学卒業後渡米し博士号を取得。現在は東京大学非常勤講師、相模女子大学客員教授、武蔵野大学客員教授を務める。2023年、JICA初の文化担当講師に就任。2008年に英訳『百人一首』を出版し、日米で翻訳賞を受賞。その他日本での著書に、英訳『伊勢物語』、英訳『百人一首(新訳)』、『英語で味わう万葉集』、『謎とき百人一首──和歌から見える日本文化のふしぎ』、『英語で古典 和歌からはじまる大人の教養』、『シン・百人一首 現代に置き換える超時空訳』など多数。NHK WORLD「Magical Japanese」、KBS京都「さらピン!キョウト」に出演している。2024年、NHK「100分de名著」で百人一首の指南役を務める。その他番組に多数出演。同年、外務大臣表彰受賞。また秋の叙勲にて旭日小綬章受章。


syoei-160.png

 『謎とき百人一首──和歌から見える日本文化のふしぎ
  ピーター・J・マクミラン[著]
  新潮社[刊]


(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)



 

ニューズウィーク日本版 ISSUES 2026
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月30日/2026年1月6号(12月23日発売)は「ISSUES 2026」特集。トランプの黄昏/中国AIに限界/米なきアジア安全保障/核使用の現実味/米ドルの賞味期限/WHO’S NEXT…2026年の世界を読む恒例の人気特集です

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

スイス・スキーリゾートのバーで爆発、約40人死亡・

ワールド

台湾総統「26年は重要な年」、主権断固守り防衛力強

ワールド

再送トランプ氏、シカゴやLAなどから州兵撤退表明 

ビジネス

ビットコイン、2022年以来の年間下落 最高値更新
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙」は抑止かそれとも無能?
  • 2
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 5
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 8
    「断食」が細胞を救う...ファスティングの最大効果と…
  • 9
    日本人の「休むと迷惑」という罪悪感は、義務教育が…
  • 10
    米中関係は安定、日中関係は悪化...習近平政権の本当…
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中