最新記事
シリーズ日本再発見

強制収容の過ちをアメリカに認めさせた日系人がいた

2022年01月31日(月)15時45分
グレン・カール(本誌コラムニスト)
ジム・タニモト

ADVANCED LABORATORY FOR VISUAL ANTHROPOLOGY

<太平洋戦争時、米政府に「忠誠登録」に署名するよう求められ、ジム・タニモトは拒否した>

当時19歳の日系アメリカ人、ジム・タニモトが歴史の渦にのみ込まれたのは1942年7月9日。

この日、米政府はタニモト一家に20ヘクタールの農場を退去し、カリフォルニア州北部の砂漠にあるトゥールレイク収容所に向かえと命じた。

その5カ月前、フランクリン・ルーズベルト米大統領は、対日戦争の継続中は日本人と日系アメリカ人を収容所に送る大統領令に署名していた。12万人の収容者のほとんどが、住居も生計手段も貯金も失った。

収容所で米政府は、アメリカへの忠誠を証明する「忠誠登録」に署名するよう求めた。その27番目と28番目の質問では米軍に入隊して日本と戦うこと、昭和天皇への忠誠を捨てることが要求された。

タニモトは憤慨した。

「自分はアメリカ市民だ。なぜ自分の憲法上の権利が剝奪されたのか。その質問は侮辱的だ」

彼と35人の仲間は何年もの収監を覚悟して署名を拒否し、そしてアメリカの良心の歴史的担い手になった。

彼は収容所に2年間入れられ、1944年に解放された。故郷の町で彼を待っていたのは「ネズミのジャップは出ていけ」という落書きだった。

米政府が過ちを認めたのは44年後のことだ。ロナルド・レーガン大統領は1988年、戦時中の強制収容に対する賠償を承認し、正式に謝罪した。

タニモトはカリフォルニアで生まれたアメリカ市民だが、日本との強い文化的・家族的紐帯を自覚している。戦後、父親と広島で原爆投下に遭った親戚を訪れたこともある。

現在98歳のタニモトは、これまで30以上の学校で数千人の学生たちに戦時中の経験を語り、その教訓を伝えてきた。

「『そんなこと(強制収容)はアメリカではあり得ない』と人々は言うが、私は経験した」と、彼は言う。「それは今も起きているし、間違いなく今後もまた起きる」

日本にルーツを持つタニモトの闘いに、今ではアメリカ社会が敬意を払っている。

Jim Tanimoto
ジム・タニモト
●元日系人収容所収容者

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日銀、国債補完供給で減額措置の上限再引き上げに慎重

ビジネス

スイス中銀、ゼロ金利を維持 米関税引き下げで経済見

ワールド

ドイツ経済、低成長続く見通し 財政拡大でも勢い限定

ワールド

小泉防衛相、ヘグセス米国防長官と12日に電話会談
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア空軍の専門家。NATO軍のプロフェッショナルな対応と大違い
  • 2
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡大、そもそもの「停戦合意」の効果にも疑問符
  • 3
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎の物体」の姿にSNS震撼...驚くべき「正体」とは?
  • 4
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲…
  • 5
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキン…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 8
    「正直すぎる」「私もそうだった...」初めて牡蠣を食…
  • 9
    「安全装置は全て破壊されていた...」監視役を失った…
  • 10
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中