コラム

谷垣禎一の民主党っぽさ

2010年07月27日(火)19時57分

 ねじれ臨時国会が30日に始まる。民主党の大敗による参院の与野党勢力逆転で生まれた現在の政治情勢は、政権交代を旗印に93年の総選挙で連立7党が自民党を権力の座から引きずり下ろしたが、まもなく与党内で内紛が起き、自民党が社会党とさきがけを「村山首相」という寝技で取り込んで政権を奪還した――という94年の自社さ連立政権ができたときになんとなく似ている。

 自民党がもう一度「寝技」を見せてくれるのかどうかを見極めたくて、東京・有楽町の日本外国人特派員協会で27日に開かれた谷垣禎一総裁の記者会見に出た。前日のテレビ出演で大連立を完全否定した谷垣総裁は、この日も民主党との連立はあくまで否定した。だが言葉の端々に「秋波」がのぞいていた(ように感じられた)。

DSC_0043.JPG
ⓒNagaoka Yoshihiro

 昨年谷垣氏が自民党総裁に選ばれたのは、谷垣氏が自民党のなかで一番民主党っぽい、言い換えれば自民党っぽくないからだ。個別の思想や政策のことではない。あくまでイメージの話である。いわば総選挙で大敗した自民党は大勝ちした民主党を「擬態」したわけだが、自民党が93年に政権を失ったあと河野洋平氏を総裁に選んだのも多分「擬態」だった。

 ただ93、94年当時の自民党には野中広務氏ら寝業師がまだわんさかいた。たとえ河野氏をトップに頂いて「リベラル」「ハト派」のイメージを全面に押し出していても、政権与党として半世紀の間培った凄みや執念のようなものはしっかり残っていて、それが結果的に政権奪還につながった。

 谷垣自民党にその「凄み」はあるだろうか。「公募や予備選で選ばれた若い候補者が参院選でがんばった。オープンな手法で衆院選の全300小選挙区に候補者をそろえたい」「民主党は現実には(官僚の)天下りを横行させている。もう少し厳格にやる必要がある」という谷垣総裁の言葉を聞くと、まるで民主党だ。もちろんどちらも悪いことではないのだが、どうにも「自民党らしさ」が見えない。

 法曹でもある谷垣総裁は頭脳明晰、恐らく人柄もかなりいいのだろう。だがそれが一国のトップとして本当に必要な条件なのか。「美徳であっても破滅に通じることがあり、逆に悪徳であっても安全と繁栄がもたらされることがしばしばある」と、マキャベリは『君主論』で説いている。

 最近の日本の首相で最もマキャベリ的なのは小泉純一郎氏だと思うが、谷垣総裁と菅首相を比べると、ずうずうしい分だけ菅首相の方がよっぽどマキャベリ的に見える。

――編集部・長岡義博

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ポートランド州兵派遣は違法、米連邦地裁が判断 政権

ワールド

米空港で最大20%減便も、続く政府閉鎖に運輸長官が

ワールド

アングル:マムダニ氏、ニューヨーク市民の心をつかん

ワールド

北朝鮮が「さらなる攻撃的行動」警告、米韓安保協議受
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 3
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統領にキスを迫る男性を捉えた「衝撃映像」に広がる波紋
  • 4
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 7
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 8
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 9
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 10
    長時間フライトでこれは地獄...前に座る女性の「あり…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story