コラム

美しすぎるテニス選手の重婚問題〜インド

2010年04月19日(月)22時21分

 ここ数週間、インド・メディアを賑わせてきたインドの女子テニス選手サニア・ミルザ。

 彼女は世界中のテニスファンにも知られた存在で、インドではテニスの実力もさることながら、その美貌でかなりの人気だ。ファッションブランドなどのスポンサー契約で数百万ルピーを稼ぐほど。2005年にはWTAツアーでインド人として初めて優勝を果たしている。

 そのサニア・ミルザが23歳で今月12日に結婚した。相手はパキスタンのクリケット選手で28歳のショアイブ・マリク。

 インド女子テニス界の新星でルックスも見事、となればそのプライベートが話題になるのはしかたないのかもしれない。

 ただ騒がれた理由はそれだけではない。結婚にまつわる話が劇的だった。2004年に出会った二人だが、ミルザにはずっと婚約している幼なじみの男性がいた。だがその男性とは結婚には至らず、マリクとの恋を実らせた。

 そして2人は結婚を発表したのだが......とんでもない事実が発覚する。

 マリクは実は既婚者だった。結婚発表を知ったマリクの妻が4月4日、警察に不貞行為や脅迫の訴えを起こしたのだ。警察は結婚している事実への捜査を開始し、マリクのパスポートを押収するなどした。当のマリクは一方で、取材などに積極に応じて弁明した(実際に婚姻届から2002年に結婚していたことが確認された。マリクは「その女性とは長く付き合って結婚するつもりだった」と認めたものの、破談になったと主張し続けた)。

 結局、逮捕が現実的になったところで、ミルザの家族と地域の年長者らが仲裁に入り、7日までに結婚していたことを認めた上で、離婚届けにサインした。日本などでは考えられない話だ。

 しかしこの結婚が大騒動になった理由は他にもある。

 まず新郎がパキスタン人で新婦がインド人であること。両者ともイスラム教徒なので結婚自体には問題はないが、パキスタンとインドは1947年の分離独立以降、ずっとライバル関係にある。3度の戦火を交え、核兵器開発競争を繰り広げ(両国とも核保有国)、今も北部カシミール地方での紛争が続き、両国間でテロなどが頻繁に発生している。

 その両国出身者の結婚。特にパキスタンでクリケット選手と言えば英雄的な存在で、マリクはキャプテンを務めたこともある人物。一方のミルザもインドの星。メディアなどが政治的な問題と絡めようとするのはしょうがないともいえる。(ちなみにテニスウェアは肌の露出が多いため、イスラム教徒の彼女はインドなどでイスラム主義者などから非難の的に。08年に今後インドの大会には出ないと発表した)

 ミルザは「私はパキスタン人と結婚したのではなく、人と結婚した。どこ出身でも関係ない。みんな政治的な話にしたがるけど、普通の人が結婚したに過ぎないわ」と結婚後に語った。
 ムンバイ生まれのミルザ、ボリウッド映画ばりの無茶苦茶なドラマだ。

ーー編集部・山田敏弘

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請、2.7万件減の19.1万件 3

ワールド

プーチン氏、インドを国賓訪問 モディ氏と貿易やエネ

ワールド

米代表団、来週インド訪問 通商巡り協議=インド政府

ワールド

イスラエル、レバノン南部を攻撃 ヒズボラ標的と主張
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国」はどこ?
  • 4
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 5
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 6
    「ロシアは欧州との戦いに備えている」――プーチン発…
  • 7
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 8
    【トランプ和平案】プーチンに「免罪符」、ウクライ…
  • 9
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 10
    白血病細胞だけを狙い撃ち、殺傷力は2万倍...常識破…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場の全貌を米企業が「宇宙から」明らかに
  • 4
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 5
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 6
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 7
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 8
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 9
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 10
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story