コラム

ユーロ危機を予測していたフリードマン

2010年02月16日(火)11時12分

 EU(欧州連合)首脳は12日、債務危機の焦点になっているギリシャを支援すると発表した。ヨーロッパの銀行はギリシャを始めとする欧州の落ちこぼれ国(PIIGS=ポルトガル、イタリア、アイルランド、ギリシャ、スペイン)にたくさんお金を貸していて、破綻されては困る。だがもっと恐ろしいのは、PIIGS諸国のどこかがユーロから離脱してしまうことだ。そうなればユーロの信認は失墜するだろうし、心血を注いできた欧州統一の理想は破れてしまう。

 突然のユーロ危機に市場は不意を突かれたそうだ。皮肉なことに、金融危機ですべての国が凹んでいた時のほうがユーロは安泰で、今回の危機はドイツなど一部の国の景気が上向き出したことが原因で表面化したという(詳しくは2月17日発売の本誌参照)。

 だが、ユーロ危機は予測されていた。ノーベル賞経済学者でマネタリストの故ミルトン・フリードマンは、99年のユーロ発足前から「ユーロ圏は最初の深刻な景気後退を乗り切れない」「寿命は15年」と言っていた。加盟国は通貨主権を欧州中央銀行(ECB)を委ね、独自の金融財政政策がとれなくなるからで、イギリスがユーロに参加しなかったのもそのためだ。またフリードマンは01年、90年代から高成長を続けたアイルランドについて、金融を引き締めるべきなのにユーロに縛られてできなかったと指摘していた。アイルランドではその後、不動産と金融のバブルが起こって07年に破裂する。金融危機後は市場原理主義者として悪の権化にされてしまったフリードマンだが、やっぱり巨人は巨人だ。

 それにしても、ただでさえドルへの不信が募っている時にユーロのこのつまづき。中国のようなお金持ちは、いったい資産を何で運用したらいいのか改めて思案を始めていることだろう。中国が提案したIMF(国際通貨基金)の特別引出権(SDR)を世界の基軸通貨にする案や、ロシアが主張する世界共通通貨、日本が提案するアジア共通通貨などの構想はどうなるのだろうか。ユーロに欠陥があるならこれらもダメなのか、それともドルやユーロに代わる未来通貨としてますます重要になるのだろうか?

--編集部・千葉香代子

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任し国連大使に指

ワールド

米との鉱物協定「真に対等」、ウクライナ早期批准=ゼ

ワールド

インド外相「カシミール襲撃犯に裁きを」、米国務長官

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官を国連大使に指名
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story