コラム

ビル・クリントンに寝だめのススメ

2010年02月20日(土)18時30分

「ここ1カ月、あまり睡眠を取れていなかった」。緊急入院して心臓手術から復帰したビル・クリントン元米大統領は17日、突然の体調悪化の原因は睡眠不足だったことを明かした。1月12日のハイチ地震の発生から、国連のハイチ特使を務めるなど激務が続き、睡眠時間がとれなかったらしい。

 クリントンほどではないにしても、ウィークデーにどうしても睡眠時間が取れない多忙な人々に朗報だ。米ウォルター・リード陸軍研究所の最新の調査によると、「寝だめ」の効果が高いことがわかったという。被験者を2つのグループに分け、1週間にわたり一方は通常の睡眠時間を取り、もう一方は毎日睡眠時間を余計に確保して寝だめする。その後の1週間、一晩3時間という短時間睡眠を課して集中力や反応時間などをテストした結果、寝だめをしたグループの方が睡眠不足に「強い耐性があった」という。

 寝だめは生活サイクルを乱し、その後の睡眠の質を悪化させる、というのがこれまでの常識だっただけに、この研究結果は興味深い。BBC(英国放送協会)は「前もって睡眠の蓄えを確保しておけば、その後の睡眠不足という負債を返済できる」との研究担当者のコメントを紹介し、困難な任務を前にした兵士の体調管理にも応用できるだろうと同研究所の見解を報告している。

 もう一つ、睡眠の常識を覆す新研究が発表されている。行動療法の専門誌に掲載されたオックスフォード大学実験心理学部の研究によれば、「羊を数える」などの単純な思考がかえって寝つきを悪くさせている可能性があるという。不眠に悩む人々をグループ分けして実験した結果、寝る前に羊を数えるなどの単純な思考をするよう指示された人々は、寝付くまでの時間が長くなった。退屈すぎて続けるのが困難なのが原因らしい。

 反対に、静かなビーチや小川の流れなどのリラックスできるイメージを思い描くよう指導されたグループは、イメージに集中することができ、寝付くまでの時間が平均20分短縮した。

 睡眠の問題は、生活習慣の工夫とテクニック次第で改善できる(もちろん、深刻な睡眠障害には適切な治療が必要だが)。睡眠不足が原因で倒れる前に、新研究のテクニックを試してみてはどうだろう。

――編集部・高木由美子

このブログの他の記事も読む

世界報道写真展:審査の裏側

イルカ猟告発映画『ザ・コーヴ』は衝撃的か

ミシェル・オバマの肥満撲滅大作戦

不遜なギリシャ首相はタダ者じゃない?

スポーツに政治を持ちこまない...わけにはいかない


プロフィール

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国で「南京大虐殺」の追悼式典、習主席は出席せず

ワールド

トランプ氏、次期FRB議長にウォーシュ氏かハセット

ビジネス

アングル:トランプ関税が生んだ新潮流、中国企業がベ

ワールド

アングル:米国などからトップ研究者誘致へ、カナダが
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナの選択肢は「一つ」
  • 4
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 5
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 6
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 9
    【揺らぐ中国、攻めの高市】柯隆氏「台湾騒動は高市…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 7
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story