コラム

中国共産党大会から見えてきた習近平体制の暗い未来

2022年11月18日(金)16時23分

象徴的瞬間 中国共産党大会閉幕式の習近平(左)と胡錦濤(右)。この後、胡は途中退席させられる(10月22日、北京の人民大会堂)

<習近平派で固めた最高指導部人事や胡錦濤の奇行に驚かされた党大会だったが、そこから見えるのは、過去10年の習政権の民間資本に対する態度のブレは共青団派との政治闘争の結果だったということだ>

今年10月中旬に中国で5年に一回の共産党大会が開催された。その大会後に発表された人事や、大会での習近平総書記の演説は私にとって大きな驚きであった。

前任の胡錦涛時代に慣例となっていた、総書記は2期10年までというルールが破られ、習近平が3期目に入る、ということは多くのメディアが予想していた。驚いたのは最高指導部を構成する中央政治局常務委員7名のうち6名が習近平に近いとされる面々で固められたことである。そのなかには、2017年11月に、北京市郊外の出稼ぎ労働者約4万人が住む町をものの2週間で叩き潰した北京市書記の蔡奇も含まれる(2018年1月5日の本コラム「火災から2週間で抹消された出稼ぎ労働者4万人が住む町」参照)。習近平派以外の一人は学者出身の王滬寧であるが、彼は習近平の治世を特徴づける膨大な量の空虚なキャッチフレーズを作るのが専門であり、政治的影響力は小さいであろう。

共青団派のホープは降格

一方、現在の首相である李克強や、経済に明るい汪洋は暗黙の定年年齢である68歳にまだ達していないのに常務委員から退任し、胡錦涛や李克強と同じ共青団派のホープとして常務委員入りが期待されていた胡春華は中央政治局からも外れ、降格となった。

王滬寧以外の常務委員6人の経歴を見ると、みな地方で地道にキャリアを積んできた「たたき上げ」の人たちであり、習近平に対して異議を唱えうるような見識や人脈を持っているようには見えない。これまでは李克強首相など、習近平に対抗しうる見識と実力を持った人たちが最高指導部に入っていたが、そうした力のある政治家たちが今回の人事で排除されたため、今後習近平の独裁色がますます強まる可能性が高い。

また、最高指導部人事のもう一つの特徴として7名の常務委員を含む24名の政治局員が全員漢族の男性で占められていることである。政治局に女性が一人も入っていないのは第15期(1997~2002年)以来であり、何やら切羽詰まって権力の集中を図っているように見える。

もう一つの驚きは、大会会場のひな壇に座っていた前任の総書記である胡錦涛が強制的に退去させられたことである。胡錦涛の表情や様子から、おそらく彼は認知症を患っており、卓上に置かれた決議文に対して「気に食わん。破ってやる」といったような不規則発言をしていたのだろうと私は想像している。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ

ワールド

トランプ氏、ニューズ・コープやWSJ記者らを提訴 

ビジネス

IMF、世界経済見通し下振れリスク優勢 貿易摩擦が

ビジネス

NY外為市場=ドル対ユーロで軟調、円は参院選が重し
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウザーたち
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 6
    「二次制裁」措置により「ロシアと取引継続なら大打…
  • 7
    「どの面下げて...?」ディズニーランドで遊ぶバンス…
  • 8
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    アフリカ出身のフランス人歌手「アヤ・ナカムラ」が…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 9
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story